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ADレポート「欧州におけるゲーミフィケーションの活用 ~ゲームの力で社会問題を解決する~」

2022年05月12日 

「ゲーミフィケーション(Gamification)」とは、課題解決や顧客・ユーザーの獲得等を目的に、テレビやスマートフォン等のゲームで使用されている技術や手法を活用するアプローチ法である。例えば、ゲームをクリアしていくことでスコアが上がる「ポイント制」やユーザーを特定行動に方向付ける「レベルアップ」、ユーザー同士の「競争」、ゲームを持続させる「モチベーション」を高める仕組み等の手法が活用される。行政においてもこれらの手法を活用し、地域課題の解決に向けた取組をゲーム化することで、より多くの地域住民に対し、課題への認識を広め、解決に向けた行動を促すきっかけになることが期待される。本稿では、欧州における社会問題・地域課題の解決を目的とした「ゲーミフィケーション」の活用事例を紹介する。

■持続可能なモビリティへの移行促進(ドイツ)

「オルデンブルク・バイシクル・チャレンジ」

ドイツ・オルデンブルク市では、2020年9月より持続可能なモビリティへの移行を目指し、市民のサイクリングの使用頻度向上に向けて、アプリゲームを活用した取組を実施している。このアプリゲームは、市内のモビリティ会社「Baron mobility service GmbH」がスペインのアプリ開発会社「Ciclogreen」と共同で開発したものであり、ユーザーがサイクリングを行った際に、速度、走行距離とあわせて、カロリー消費量や自動車運転時と比較したCO2削減量を表示する機能を持つ。これにより、ユーザーに対して自身の行動が健康やCO2削減に与える影響の大きさを認識してもらい、市民のサイクリング頻度を高めるための動機付けを行うことを狙いとする。

オルデンブルク市が開催する「オルデンブルク・バイシクル・チャレンジ」は、市民がこのアプリを利用し、一定期間内に定められた目標キロ数の達成を目指すイベントである。目標キロ数を達成すると、自転車のボトルホルダーやバッグのレインカバー等をはじめとする自転車関連のアクセサリーが当たるくじ引きへの参加権を取得することができるとともに、1キロ走行するごとに、アプリ内で仮想通貨を貯めることができ、それらを地元のレストランやカフェなどの提携店で、割引クーポンへ交換することが可能となっている。また、他のユーザーと走行距離を競い合うことのできるランキング機能や、アプリ内で他のユーザーとコミュニケーションをとることのできる機能も備わっている。

【画像:(左)他のユーザーとつながることでモチベーションの維持につなげる、(右)走行距離に合わせて、消費カロリー数や環境への貢献度を表示する】

アプリの利用者から収集された、自転車の利用状況、走行ルートや走行速度等に関する匿名化された情報は、同取組のパートナーであるオルデンブルク大学によって、人々の自転車行動の変化、自動車利用に比べて節約することのできたCO2排出量などの分析のために活用される。2020年9月以降、これまでに420人がのべ168,883キロメートルを走行し、自動車利用時と比較して、42,146キログラムのCO2を削減している。

■ネットリテラシーを学ぶ(フィンランド)

「Troll Factory」

フィンランド国営放送「Yleisradio Oy」は、ネットリテラシーを学ぶためのコンピューター・ゲーム「Troll Factory」を開発した。このゲームでは、プレイヤーがネット上の「荒らし(Troll)」側を体験し、フェイクニュースや過激なコンテンツ等が人々の気分や意見、意思決定に影響を与えるためにどのように利用されているか等、情報操作の手口を理解することで、正しい情報の取捨選択を行うことを学ぶことのできるゲームとなっている。

ゲームは、仮想のスマートフォン上からメッセージアプリ風の会話形式で行われる。ゲームを開始すると、「Troll Factory(荒らし工場)」の「ボス」から、反移民感情等を煽るよう指示が出され、フェイクニュースや過激な差別発言等が含まれるメッセージや画像の候補が3つ程度提示される。プレイヤーは、その中からどの投稿を使用するか、またどのような方法で投稿を拡散していくかを選択することができる。自分が流した投稿の内容が過激であればあるほど、自分のアカウントへのフォロワー数や投稿のシェア数が増加していく仕組みとなっている。

筆者も体験してみたところ、あくまでゲーム上ではあるものの、過激で差別的な内容を含む投稿を拡散することに強い不快感を感じざるを得なかった。ゲーム上で使用される過激なネタ画像等は、現実のSNS上で投稿されたものが使用されており、ゲームの開始前には、その過激な内容から、プレイヤーが不快に感じる可能性があるという警告文も表示される。ゲームを進める中で、過激な情報を投稿する度に伸びていくフォロワー数やシェア数の数字から、自らが発信した投稿が、どれほど多くの人に影響を与えるかを認識することができる。また、このゲームで「荒らし」側としてフェイクニュースを発信する立場を体験し、様々な情報操作の手口を理解することで、日常生活においてもフェイクニュースを見分け、情報の取捨選択能力を習得することができる。

【画像:(左)投稿する度にフォロワー数・シェア数が増える様子、(右)情報拡散のため、「ボス」から課金を誘導される】

※ゲームはこちらのサイト上から体験できます。(英語)⇒ https://trollfactory.yle.fi/

■子供のメンタルヘルスケア(英国)

「Lumi Nova: Tales of Courage(ルミ・ノヴァ:勇気の物語)」

スマートフォンやタブレット向けのゲームなどのデジタル治療で子供のメンタルヘルスケアを行うイギリスのBFB Labs社は、レディング大学、MindTech UK等と共同で、子供のメンタルヘルスケアを支援するゲームアプリを開発した。この開発にあたっては、イギリスの国民保健サービス(NHS)が96万4,300ポンド(約1億5,000万円)の資金を提供している。

このゲームは、7歳から12歳の子供を対象としており、子供たちが不安や悩みをうまく管理し、レジリエンス(逆境や困難、強いストレスに直面したときに適応する精神力)を高めるためのスキルを身につけることを目的としている。

ゲームの中では、銀河の星々へ旅に繰り出すプレイヤーが、他のキャラクターと出会ったり、アイテムを集めたりする過程で、自分の中の恐怖や不安と向き合い、克服するきっかけとなるシチュエーションが組み込まれている。例えば、「自分の家以外で寝られるようになる」「学校の課題を間違えても気にしない」「ひとりで寝る」「人前で話す」「友達を作る」「学校に行く」といった数々のミッションが課され、そのミッションをクリアすることで、ゲーム内で報酬を獲得する仕組みとなっている。また、それぞれのシチュエーションにおいて、プレイヤーが自分自身の心境を振り返り、感情と向き合う機会が設けられている。

【画像:(左)人前で話すことに対する感情を振り返る、(右)惑星を旅するキャラクター】

このゲームを開発したBFB Labs社によると、精神疾患の半数は14歳までに発症し、不安障害を持つ若者の最大7割が適切な治療を受けていないという。新型コロナウイルス感染症の拡大も相まって、不安障害を持つ若者は増加傾向にあるといい、こうした不安障害は、学校に行くことや友人に会うこと等、日常生活における活動へ参加することを阻み、うつ病や自傷行為等、生涯にわたって悪影響を及ぼす可能性があるとしている。

このゲームは、2020年にロンドン・サザーク区内の12の学校にて90名の生徒を対象にトライアルが行われたところ、ゲームに参加した子供たちは、わずか8週間でパニック障害や不安障害等の症状の軽減を経験したと言う。

以上のように、欧州においては、社会問題や地域課題の解決を目的に、政府・自治体が主導して「ゲーミフィケーション」を活用した取組が多く見られる。ゲームで遊ぶときのワクワク感やドキドキ感を活用することによって、子供から大人まで、幅広い人々に対する知識の普及や行動変革につなげることが可能となる。これにより、様々な社会問題や地域課題について、認識はしているものの、なかなか行動に移すきっかけやタイミングがなかった人に加え、そもそも関心がなかった人をも巻き込むことができる。本稿で取り上げた、欧州における「ゲーミフィケーション」を活用した事例を参考に、日本の地域や自治体においても、課題解決のための有効なアプローチの一つになり得るのではないかと考える。

ロンドン事務所所長補佐 中村萌子

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