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ADレポート「海外あるある?ロンドン地下鉄のストライキに遭遇」

2022年04月12日 

ロンドンは、150年以上前に世界で初めて地下鉄が誕生した都市です。電車が円形状のトンネルの中を走る様子から「Tube(チューブ)」と呼ばれ、ロンドンの名物として親しまれており、今では、計11路線、272駅を有する世界有数の路線網を誇ります。毎日200万人以上もの市民や観光客に利用されており、大都市ロンドンにとって必要不可欠な存在です。

ところが、ロンドンで生活する人々の重要な足であるロンドン地下鉄でも従業員によるストライキが実施されることがある。2022年3月には、ここ数年で最も大規模なストライキが実施されました。

―地下鉄ほぼ全線が運休、街中の様子は?

今回のストライキは、ロンドン地下鉄の従業員約1万人が加入する交通労働者組合(RMT)が、ロンドン交通局による雇用削減、年金受給条件の変更に向けた動きに強く反発して決行されたもので、3月初旬の平日2日間、地下鉄全11路線のうち8路線が終日運休となりました。このストライキの決定を受け、ロンドン交通局はストライキ期間中の混雑時間帯における外出・出勤をなるべく避け、他交通機関を利用するよう呼びかけました。

イングランドでコロナ関連規制が全面解除されてから初めてのストライキとなった今回は、在宅勤務からオフィス出勤に切り替えていた多くの通勤客に影響を与えることとなりました。タクシー乗り場には長蛇の列ができ、通常どおり運行されていたバスには人が殺到しました。バス停には、雨の中すし詰め状態となったバスを何台も見送りながら途方に暮れる人々が溢れかえりました。運良くバスに乗ることができても、タクシーや自家用車で普段よりも交通量が増した道路では渋滞が発生し、自宅から職場まで通常であれば数十分のところ数時間かかってしまうなど、身をもって混乱を体験することとなりました。

【画像:雨の中、人が殺到するバス乗り場 (出典BBC)】

―パンデミックによる財政危機

地下鉄従業員が大規模ストライキ決行の理由としたロンドン交通局による雇用削減、年金受給条件の変更に向けた動きの背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大による利用者の激減により、過去最悪の財政難を迎えていることにあります。

2020年5月には、財政再建に向けた中央政府による救済措置として、ロンドン交通局に対して緊急資金援助を行うことが合意されました。以来、2021年までに3回の資金援助が行われています。2022年2月には、新たに2億ポンド(約310億円)を受けることが決定し、これまで中央政府からロンドン交通局に提供された資金は総額50億ポンド(約7,750億円)にものぼるといいます。

ロンドン交通局は、今回の2億ポンド(約310億円)の緊急資金援助を受けることと引き換えに、従業員600人分の人員削減による約4億ポンド(約620億円)の経費節減、年間約3億6,000万ポンド(約550億円)が充てられている従業員の年金受給条件の見直しの検討を迫られることとなりました。なお、従業員の人員削減については、現役の従業員は解雇せず、今後退職する従業員の後任を補充しない方針としています。

さらに、2022年末までに1億5100ポンド(約234億円)の追加収入を得るため、ストライキ初日となった3月1日から、ロンドン交通局が運営する地下鉄及びバスの運賃が値上げされました。運賃の値上がりは過去6年間のインフレ率に基づいて決定されており、今回は平均4.8%と過去10年間で最も高い値上がりとなりました。ロンドン交通局を運営するロンドン市のサディク・カーン市長は、ロンドン交通局の資金不足が解消されなければ、地下鉄は10%、バスは5分の1に減便される可能性があると述べています。

―政府、地下鉄の自動運転化を検討か

政府は、ストライキの実施は多くの通勤客に影響を及ぼし、ロンドンの経済に大きな打撃を与えるものとして強く批判しています。現に、今回ストライキが実施された一週間で、ロンドン地下鉄の運賃収入は約1,300万ポンド(約20億円)減少したと推定されています。今回の争点となった人員削減、年金受給条件の見直しについては未だ終着点がみられず、今後もストライキが実施されることが予想されています。

将来のストライキに対抗するため、政府はロンドン交通局に対し、新たな資金提供の条件として無人運転に対応した列車の導入を働きかけているとの報道もあります。この要求は、交通労働組合によるストライキの効力を弱めるための動きと考えられます。今後も人々の生活に多大な影響を及ぼすロンドン地下鉄をめぐる政府、ロンドン交通局、労働者組合の動向に注目が集まります。

所長補佐 中村 萌子(東京都派遣)

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