2020年度日英交流セミナー「Housing policy in the UK and Japan」実施報告

国際交流

2020年度実施事業 PDF

2020年度日英交流セミナー 「Housing policy in the UK and Japan」

日時: 2021年3月8日(木)10:00~12:00
開催方法:ウェビナー
参加者: 95名

【概 要】

 自治体国際化協会ロンドン事務所では、日英両国の地方行政に関する取組や課題を紹介し相互理解を深めるため、JLGCセミナーを毎年開催している。2020年度は、日英両国の住宅政策をテーマに、手頃で持続可能な住宅の提供について考えるセミナーを開催した。英国では、人口が増加している中、都市部を中心として手頃な住宅が不足していることによりホームレスが増加しており、地方自治体は、いかにして手頃な住宅を供給するかという問題を抱えている。このため、英国政府は、MMC(Modern Method of Construction、プレハブ工法)という建設方法により、手頃な住宅を早急に供給する政策を打ち出している。  

 今回のセミナーでは、イングランドにおいて住宅供給を担う行政機関であるHomes Englandと、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)による住宅供給への取組及び英国における建設業界の課題及び政府によるMMCの推進についてプレゼンテーションがあり、英国の有識者の視点から住宅政策について議論を行った。 

【はじめに】

1.主催者挨拶 

鈴木所長 

 (Director of the Japan Local Government Centre) 

2.イングランドにおける住宅政策について 

講演:Harry Swales氏(Executive Director, Homes England 

世界的なパンデミックの中で、住宅の役割は、これまで以上に重要なものになっており、住宅政策という重要なテーマについて、お互いに学び合う機会は、大変貴重なものである。 

・日本と英国は、高齢化などの人口動態の面で共通点があるため、住宅政策について共有できるものが多いと考える。 

・英国では、長い間、住宅供給が少なすぎたため、手頃な価格で住宅を提供するという課題があり、政府は、毎年30万戸の住宅を継続的に建設し、2024年までに100万戸を目指している。 

・イングランドの住宅供給機関であるHomes Englandの役割は、住宅建設に必要な土地を確保することと、官民双方のパートナーを集め、さまざまな資金源を組み合わせることで、住宅への投資を促進することである。これにより、土地や資金へのアクセスに苦心する中小企業の住宅建設を支援し、活気に満ちた多様な住宅供給市場を構築している 

【第1部】

1.UR都市機構の概要及び賃貸住宅の運営管理について

講演:UR都市機構

 

・戦後の住宅不足の解消のため、1955年7月にURの前身となる日本住宅公団は設立された。2004年に現在の独立行政法人都市再生機構として新たなスタートを切り、豊かな生活空間の提供、地域と共にまちづくりを行うことを業務として掲げ、東京・大手町等における都市再生事業や超高齢化社会に対応した住まいづくりを目指す住環境事業に取り組んでいる。

・ 主な業務内容としては、下記3つになる。

①都市再生:民間事業者や地方公共団体と協力し、都市の国際競争力強化や地方都市の活性化、密集市街地の整備改善など、政策的意義の高い事業の実施により、都市再生の推進を図る。

②賃貸住宅:約72万戸の賃貸住宅を適切に管理するとともに、少子高齢化に対応し、幅広い世代や多様な世帯が生き生きと暮らし続けられる住まい・まちの実現を推進。

③災害復興:阪神・淡路大震災以降に培ってきた復旧・復興の経験を生かして、東日本大震災や熊本地震などの大規模災害からの復旧・復興を推進。

・UR賃貸住宅の既存ストックの建替、集約、改修といった団地再生を行う場合には、施設の誘致や公園の再整備等を通して、まちづくりを推進している。 古い団地の住棟は元々エレベーターが無いため、高齢者等の利便性向上のためにエレベーターを追加で設置している。 また、建替えにより住棟が高層化したことで生み出された敷地は、子育て・高齢者施設や民間ディベロッパーの住宅用地等として整備されている。

・ヌーヴェル赤羽台の建替事業においては、 団地とその周辺地域の活性化を目指して、建築計画、経済、都市計画の学識経験者、UR、北区による委員会を組成し、地域再生に関する推進方策の検討と、その実現にむけた赤羽台のまちづくりの方向性の検討を行ってきた。また、各街区を担当する建築家チームとランドスケープ・照明の各デザイナー、UR 都市機構をメンバーとする「デザイン調整会議」を設置し、街区ごとの個性と全体の調和の両立をテーマとしたまちづくりを目指した。

・ヌーヴェル赤羽台の一角には、上から見て星型に見えるスターハウスと呼ばれるレトロな建物等を4棟残している。 この建物は、1960年代当時の暮らしを知ることのできる貴重な建物として、登録有形文化財に認定されている。 また、この建物では、『Open Smart UR』という企画を実施しており、部屋の中に、AI・IoTを取り込んだ、新しい暮らしを提案している。「Open Smart UR」とは、東洋大学情報連携学部(INIAD)と共同で、UR賃貸住宅にIoTやAI等を活用し、様々な生活関連サービスを提供する「HaaS(Housing as a Service)」HaaSコンセプトに基づくビジョンである。

 

2.パネルディスカッション

Harry氏及びUR都市機構によるプレゼンを踏まえ、英国における住宅供給の計画や課題について、各々の知見から意見を述べた。

〇Jenny Preece(Deputy Director, Planning – Infrastructure, Ministry of Housing, Communities and Local Government)

・英国における、手頃な住宅が不足しているという課題を解決するために4つの角度から取り組む必要があると考えている。

1つ目は、政府による補助金により、住宅メーカーが手頃な住宅を建設することの支援である。現在、イングランド政府は、手頃な住宅プログラムを掲げ、5年間で115億ポンドの予算を確保している。

2つ目は、人々が賃貸または戸建てのいずれを希望するのかというニーズを把握し、住宅を提供できるようにすることである。UR都市機構は、賃貸住宅を建設しているということであるが、イングランドでは、政府の手頃な住宅プログラムにより建設される住宅戸数の半数は、賃貸住宅であり、残りの半数は、手頃な価格の持ち家を支援するものである。

3つ目は、UR都市機構の講演でも言及されていた快適な環境づくりである。UR都市機構のプレゼンテーションを聞いて大変興味を持った。住宅そのものだけでなく、店やサービスへのアクセスなど取り巻く環境を整備し、人々が住みたいと思う場所を形成することが重要である。

4つ目は、新しく建設される住宅と既存の住宅の安全性である。グレンフェルタワーの火災からの学びはとても重要である。UR都市機構への質問に対して、入居者の声を大切にしているという回答があったが、これはとても重要である。

・UR都市機構は、住宅の建設から賃貸まで一連の責任を負っていることは印象的であった。

 

〇James Gleeson(Housing Research and Analysis Manager, Greater London Authority)

・私は、GLA(※)で、住宅調査の担当であり、住宅戦略などの都市開発にも関わっている。

・GLAは、ロンドンにおける都市計画を策定し、ロンドン全体の開発を監督している。ロンドンにおいては、社会、環境、そして経済に貢献する住宅供給を計画している。また、5年間で40億ポンドの補助金の制度を設け、ロンドンにおける手頃な住宅の供給を推進している。

・UR都市機構のプレゼンテーションから感じたことは、日本の住宅政策は、戦後の深刻な住宅不足の状況の中、供給量を急速に伸ばしたこと、高齢化社会や消費者の多様なニーズを満たしており、適応性が高いということである。

(※) GLA(Greater London Authority)は、 直接公共サービスを提供する機能がな、ロンドンを広域的に担う地域政府と位置づけられる。

【第2部】

1.英国における建設業界の課題及び政府によるMMCの推進について

講演:Mark Farmer 氏(UK Government MMC Champion)

・英国の建設業界は、30~40年前から生産性が向上しておらず、EUからの移民に頼るほど人材確保にも苦しんでいる。MMCは英国の住宅課題を解決するために必要である。

・政府は、住宅建設におけるMMCの採用を推進している。予算案の中で、MMCの採用に関するアジェンダを明確に打ち出した。

・建設業界の今後の課題は3つある。1つ目は、2017年の高層住宅グレンフェルタワーの火災を受け、政府も最重視している住宅の安全性の確保である。2つ目は、持続可能な建設を行うこと、3つ目は、住宅メーカーによる、デザイン・品質・消費者へのアスターケアなどブランド力の向上である。

・Homes Englandは、MMCによる住宅建設を推進するため、2019年5月に積水ハウスと提携している。積水ハウスの会社案内のリーフレットからは、顧客へのアプローチが我々ものとは異なっていることがわかる。顧客や環境変動についてあらゆる箇所で言及されている。積水ハウスは品質保証を行い、点検による保証期間の延長を提供している。このような保証ができるのは、積水ハウスが製品に確かな自信を持っていることの裏付けである。また、日本の一般的な戸建て住宅の多くが工場で建てられているため、このような提案ができるのだと考える。英国の建設業界は、優先事項が何であるかについて考え、消費者に真の価値を提供することで成長する必要がある。

2.パネルディスカッション

Mark氏のプレゼンを踏まえ、各々の知見から意見を述べた。

〇Pat Hayes氏(Managing Director, Be First (Barking and Dagenham Council))

・私が働いているBe Firstは、ロンドン市にあるバーキング・アンド・ダゲナムという区の直轄住宅建設会社である。バーキング・アンド・ダゲナムは、英国でも5本の指に入るほどの貧困地域であるため、私たちの目標は、手頃な価格でありながら、住みやすく、メンテナンスも簡単な賃貸住宅を提供することである。私たちは、独自の建築チームと設計チームを育てており、MMCによる住宅建設を拡大していくためのデザインに取り組んでいる。

・Be Firstでは、ロンドン市の手頃な価格の住宅プログラムの住宅の約20%を建設している。昨年は300戸、今年はさらに300戸、その後は500戸の住宅を提供する予定。

・英国では、住宅メーカーは、住宅の販売に焦点を置き、価格を低く設定する。しかし、その損失を様々な方法で回収するために、サプライチェーンに圧力がかかり、品質が損なわれたり、管理ができなくなったりして、非常に劣悪な労働環境に陥り、それがグレンフェルタワーのような事態に直結する。MMCを採用すると、請負業者との入札プロセスの最初の段階で、品質と価格を明確にできるため、安全で手頃な住宅を提供できる。

・英国では、60年代、70年代に、MMCによる住宅が多く建設されたが、当時の住宅は品質も見た目も悪かったので、このイメージを覆さなければならず、政府によるMMCの推進は重要である。

〇 Alexis Harris氏(Senior Policy Officer – Housing and Land, Greater London Authority)

・ロンドン市長は、ロンドンの住宅供給を促すためにMMCを推奨しており、40億ポンドの予算により、5年間で8万2000戸の手頃な新築住宅を建設するプログラムがある。このプログラムでは、住宅メーカーは、住宅を建設する上で、どのようなMMCの技術が採用されているかという、かなり詳細な情報を提出することが求められ、ロンドン市におけるMMCに関するデータの構築に役立てている。

・Mark氏が述べたように、建物の安全性と品質は重要である。4年ほど前にロンドンで72人の命が奪われた悲惨なグレンフェルタワーの火災が発生し、それ以来、市長はロンドンにおける住宅の安全性の向上に多くの時間とエネルギーを費やしてきた。

・日本の住宅メーカーは、Mark氏が述べたように、建設後のアフターフォローがあり、台風や地震の後には修理を提供している住宅メーカーがあるという記事を読んだ。品質や安全性を確保するという建設業界の役割を考える上で、非常に興味深い。英国でMMCを推進する上での私たちの役割を考える上でも、このような日本の事例は有益である。

〇 Sir Steve Bullock氏(Chair, PLACE London (London Councils))

・私は、ロンドンの一部の区が合同で設立したPLACEという会社で会長を務めている。私たちは、高品質の住宅ユニットをホームレス対策に利用することである。ホームレス対策は、どの地方自治体にとっても課題であるが、特にロンドンの行政区にとっては大きな課題である。

・MMCは納期を守ることができ、しかも迅速に納品できることを実感している。重機が到着してから、実際に居住できるようになるまで約3週間ほどであった。

・数ヶ月後には16ユニットが完成する予定であり、今後40~50ユニットの住宅を建設することも計画している。

【Q&Aセッション】

質問①:多世代で暮すことについて、UR都市機構ではどのような取り組みをしているのか。

回答(UR都市機構):バリアフリー化や高齢者施設の誘致を行っている

質問②:団地の再生に伴い、賃貸住宅の住人から意見を吸い上げるような仕組みはあるか。

回答(UR都市機構):建て替えに際しては、住人の意見を聞き取り、計画に落として事業を進めている。

質問③:UR都市機構は、地方の過疎化について、自治体とどのようにして問題解決に臨んでいるか。UR都市機構では、都市開発を行っているが、そのことは過疎化に影響していると考えられるか。

回答(UR都市機構):地方の過疎化は日本でも喫緊の課題である。URの都市開発が地方の過疎化に影響を与えているかはわからないが、URとしても地方都市の再生に取り組んでおり、過疎化を抱える自治体から要請があった場合は、新しいまちづくりに協力をしている。

質問④:手頃な住宅の供給はまだこれからである。計画を進める上で必要なことは何か。

回答(Harry Swales氏):手頃な住宅を速やかに供給するために必要なことは、住宅を供給できるだけの十分な土地を、適切なペースで提供することである。地方自治体との間で、より早い段階で土地の決定を下すことができれば、自治体と請負業者は住宅の種類と設計、引き渡しに関する期待値がより確実なものになり、より多くの住宅を供給できると考える。