調査・研究

スピーカーシリーズ

英国の移民政策について

2008年02月27日 

●テーマ:「英国の移民政策について」
●日時:2008年2月27日 13:30~14:30
●講師:ベーカー&マッケンジー法律事務所Immigration Specialist藤本静子様

ご講演要旨
【英国の移民政策の歴史】
○英国は元来、敵国以外の外国人の受け入れに寛大で、特に旧英領植民地の人々は、British Subject、つまり英国住民とみなされ、比較的自由に英国への移民が許された。

○それが、二度の大戦や植民地の独立化で、避難民や植民地の人々が大量に英国に流れ込むようになり、本格的に外国人のコントロールが始まった。
○まず、1962年のCommonwealth Acの制定で植民地からの移民をコントロールし、更に東アフリカからのアジア系の移民が勝手に英国に移民出来ないようCommonwealth Act1968を制定。
○1972年には、英国のEEA加盟により、ますます英国の移民政策の様相が変わり、ようやく現在の移民政策の基本ともなるImmigration Act1971が成立した。
○英国の移民政策は、私見を言えば、従来は人種差別的な側面が強かったが、今日は英国経済へ貢献するような人々のみを受け入れたいという方向にシフトしてきている。

【国境・移民庁の移民政策の変更点】
○英国における永住権(Indefinite Leave to Remain:ILR)を得るために、18歳以上の人は全て、英国についての基礎知識を計るため、“Life in the UK Test”に合格する必要がある。
○“Life in the UK Test”に合格しなかった配偶者(受験しなかった者を含む)でも、永住権保持者の配偶者として申請すれば、2年間は英国に滞在することができるが、テストの合格なしに2年以上滞在するには、特段の理由が必要。
○英国滞在のビザを外国から申請する際、5歳以上の全ての人は、東京もしくは大阪のビザ申請所において、生体情報(Biometric Data)を提出する必要がある。
○英国内では、生体確認証書(Biometric Identification Document:BID)が2008年11月から導入され、現行のUK Residence Permit(英国滞在許可証)の代わりとなる。カードに組み込まれたチップに生体情報が保存される。既にパイロット事業として始まっているが、全ての外国人へのBIDの交付は一応2011年からとなる。
○これらの移民政策の変更は、英語を母国語としない日本人の被雇用者にとっては多大な負担になりかねず、その適用の弾力化について現在外交交渉が行なわれている。

【PBSスキームの概観について】
○政府は、英国経済に貢献するような移民の申請手続きを1回で終わるよう簡素化するため、Points Based System(PBS)を導入予定で、一部のTier1はすでに今年の2月29日からスタートした。この新システムのもとでは、現在、英国への就労・就学について73のルートが可能であるところを5つに簡素化できる。この変更は、英国の移民政策の歴史の中で画期的な変更である。
○5つの区分は以下のとおりである。
Tier1. 英国の経済成長と生産性に貢献できる高技術者
Tier2. 英国の労働力不足を補う技術労働者
Tier3. 特定の一時的な労働力不足を補う低技術労働者
Tier4. 学生
Tier5. ワーキング・ホリデー及び経済以外の目的で英国に来る一時的労働者
○第一に、雇用者は国境・移民庁へSponsorship License(雇用ライセンス)を申請しなければならない(1の場合は必要なし)。
○PBS以降後に英国に来たいと考えている人は、以下を満たす必要がある。 
・区分ごとに指定された必要なポイント基準を満たすこと(Tier2の場合、50ポイント)
・以下に示す英語力を満たすこと
-Council of Europe’s Common European Framework for Language Learning又は GCSEテストのCレベル以上に合格した場合(もしくはこれらと同程度)、もしくは国民の大多数が英語を話す国から来る場合
-英語で学位取得をした場合は、別途英語力テストを受ける必要はない。
・生活を維持できるだけのお金があること。
・英国内の雇用者から事前のCertificate of Sponsorship(移民雇用証明)を得ること。

【PBSのもとでの新たな義務】
PBS導入の背景にある概念として、「移民によって利益を得る人々は、移民システムが悪用されないように責任を果たすべきである。」というものであり、ライセンスの発行に係る条件として、雇用者は、上記責務を果たすべく、適切な内部手続きを導入すべきであるとされている。雇用者には、以下の義務が発生する。
 ・記録保管義務(移民従業員のパスポートのコピー、連絡先、その他)
 ・報告義務(移民従業員の無断欠勤、解職、役職など雇用関係の変化、犯罪の疑いなど)
 ・コンプライアンスの義務(Immigration, Asylum & Nationality Act 2006の15条及び21条の遵守)
 ・国境・移民庁への協力義務(国境・移民庁の立ち入り検査、アクション・プランの遵守など)
○PBSの日本企業への影響
・移民雇用ライセンスの申請
→関連会社一括の申請を行なうか、個別の申請を行なうかの選択
→責任者(Authorised Officer)等の任命
・それぞれの従業員のCertificate of Sponsorship(移民雇用証明)申請
→申請はオンラインのみ。
→1年に発行が必要とされるCertificate of Sponsorship(移民雇用証明)の数の報告
・雇用者及び家族の延長申請
  →国境・移民局は、まだ、従業員の家族の労働を許可するかどうか決定していない
  →従業員の家族は、永住権を獲得するためには、少なくとも2年は英国で居住することが条件付けられることが予想され、事実Tier1ではこの条件が求められている。
○PBSの履行スケジュールについて
   ・TIER1
     2008年2月29日から-国内申請者
     2008年夏から    -国外申請者
   ・TIER2 
     2008年の年末
     登録は2008年初頭から(3月?)
   ・TIER3 
     保留中
   ・TIER4 
     2009年の年始
   ・TIER4 
     2008年末
○申請料金
・50人以上を抱える大企業には1000ポンド
・雇用証明170ポンド
BIDの発行30ポンド
(以上)

ページの先頭へ