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スピーカーシリーズ

日英の陪審員(裁判員)制度について

2008年02月25日 

●テーマ:「日英の陪審員(裁判員)制度について」
●日時:2008年2月25日 14:00~15:30
●講師:朝日新聞社記者 佐々木健 様

○私は、事件記者を長くやった。その経験も踏まえ、お話をしたい。
○日本では、来年4月ごろから裁判員制度がスタートする予定。

【イギリスの報道規制】
○イギリスでは、逮捕から起訴までの期間が短く、数日である。また、逮捕後は、陪審員に予断と偏見を与えるという理由で、重大事件については報道ができない。違反すると法廷侮辱罪になり、罰則もある
○イギリスのメディアが報道規制に甘んじている背景には、過去のデイリーメールのサッカー選手の傷害事件に関する報道への反省がある。(デイリーメール紙が事件に人種差別の背景があると報じ、しかしそのような事実がないことが分かり、同紙の記事を読んだ陪審員が全員交代になった。そのために15億円の経費が無駄になった。)

【報道規制の是非】
○しかし自主規制も含めメディアの報道規制は問題はないのか。ロス疑惑の三浦和義が27年ぶりに逮捕されたが、メディアが先行して「怪しい」と報道していた。メディアは概して大きな波に乗って、警察の前に報道する。それは問題でもあるが、使命でもある。
○私は、知能犯などを扱う捜査二課を担当していたが、たとえばある国会議員の捜査がどこまで続いているかの取材で、二課の取材と報道は、当局が狙っている段階、水面下を流しているプロセスも含め、事件がはじける前から行うものである。つまり二課については、メディアは、疑惑がある「かもしれない」という段階から報道をする。各社が独自に書く。そして、裁判が始まれば、そこで出てくる新事実ももちろん書く。しかし、イギリスの法律では、それができない。
○日本はどこまでメディア規制ができるか。メディア自身もガイドラインを自分で模索している。

【報道規制と陪審員】
○日本の裁判員は、裁判員がつくかどうかは事件の内容によって決まるが、英米は重要犯罪及び被告人が否認している事件に陪審員がつく。
○イギリスでは、犯人が逮捕されるとメディアの報道がなくなる。そのため、陪審員は、陪審員に選ばれたときに、その事件について知りたいと思うと、新聞報道がないので、インターネットを探すことが多い。そして、インターネットには、根拠のわからない怪しい情報があふれている。そういったものから、誤った先入観を得てしまうことがある。つまり、現代は、情報は止められるものではない。

【アメリカの陪審員制度の現状】
○アメリカの陪審員制度は、既に破綻している。まず、給与補償が足りないため、ホワイトカラーの引き受け手がなくなり、15%を切っている。アリバイのための航空券を売る業者までいる。また、陪審員の身辺調査をする会社があり、陪審員のメンバーにより、裁判の結果が予測できるところまで来ている。不利なメンバーであれば、理由をつけて忌避申し立てをし、交代させたりする。裁判に非常に時間がかかる原因にもなっている。(以上)

【イギリスの新聞】
○イギリスは、アメリカほどひどくはないが、規制を遵守するモラルの高いメディアは、使い分けもしている。たとえばマデリーンちゃん事件は、舞台がイギリスではなくポルトガルだったため、報道規制の適用外だった。そして、マスコミの報道は過熱した。イギリスは新聞配達がないため、街角で目に付き、買ってもらわなければ生き残れず、各社の見出しや報道内容の競争や個性化は激しい。また、朝刊と夕刊を両方出すということがないため、時間に余裕があり、記事の内容を練ることができることも、記事の個性化に資している。

【わが国の裁判員制度と報道】
○日本ではどうなるか。裁判員を無菌状態に置くことはできない。そして、世間の関心が向いていないようなときも、報道記者は事件をずっと追っている。

(質疑)
○(日本の裁判員に予想される状況について)いったん選ばれると、断ることも、また選ばれたことを口外することもできない。孤独感が強いだろう。世論が知りたくなるはずである。私は、この制度は5年で破綻すると予想している。大正時代に一度導入しようとしたが、失敗している。弁護士の口調などで、裁判員の受ける印象と判断が変わってくるようなこともありえる。
○(現行の制度に問題があったのか)専門の裁判官は、やはりプロである。批判しすぎたメディアも悪かったと思う。人間らしいのが、よいのかどうか。裁判員制度も、密室のことであり、批判すべきものではないか。
○(イギリスのメディア規制の今後について)現在の法務長官が、国会で「メディアが及ぼす影響を調査する」と答弁した。が、「あまり影響なし」という結果になりそうである。ただ、たとえ報道規制がなくなっても、自主規制で十分だろう。
○(裁判員と情報リテラシーについて)やはり情報源はメディア、特に新聞であるべきである。新聞も価値が多様化している。ただし、主張をしたい一方で、その怖さを感じている面もある。(以上)

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