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調査・研究

地方自治体等訪問

2021年度の自治体訪問研修について(レスター市、バックハーストヒル・パリッシュ・カウンシル等)

2022年03月25日 

ロンドン事務所では、自治体や議会の運営及び政策等に関する職員の知識を深めるとともに、自治体関係者との人脈づくりを促すため、英国の自治体を訪問する研修を実施しています。2021年度は、新型コロナウイルスへの対応で多忙ななか、また、職員の多くが在宅勤務をしていることで職場に人が少ないなかも、多くの自治体に当事務所の訪問を受け入れていただきました。各自治体に深く感謝しつつ、そこでお聞きした各自治体の取組を紹介いたします。

レスター市のスマートシティ政策

レスター市は、ロンドンから電車で1時間ほどのところにある人口40万人の都市です。かつては製造業が盛んで多くの労働力を引き付けたことから、現在でもエスニックマイノリティが多く暮らしています。また、人口自体は増加している一方で、優秀な人材はロンドンをはじめとする近隣の大都市に流れてしまうことが多く、結果として平均所得は全国平均よりも低くなっています。
同市では、これらの経済的な課題に加え、住民のデジタル化への対応、そして気候変動に取り組むために、「人」、「場所」、「プラットフォーム」の3つのテーマで「スマートシティ施策」を推進しています。このうち、「人」をテーマにした取組では、デジタルビジネス等の分野における雇用の拡大、デジタル化に対応するための学習機会の提供を行っています。さらには、教育を受け、職を得るためにはインターネットとパソコンが必須であるため、住民がパソコンを安価に手に入れられるよう取り組んでいます。「場所」をテーマにした取組では、教育と仕事、住居が一つのエリア内で完結するスマート地区の整備等を進めています。そして、「プラットフォーム」についての取組では、市内の情報を可視化するオープンデータ・プラットフォームを立ち上げることで、国レベルの統計では見えない地域独自の情報を収集・公開しています。このオープンデータについては、地域内の各自治体が事業立案の際に活用することはもちろん、学識者にも提供されているほか、民間企業や団体も活用することが可能であり、例えば無料給食の提供状況に関するデータはチャリティ団体による貧困家庭支援に利用されています。また、最近では、 新型コロナウイルスに関するデータも感染対策のなかでよく利用されていました。
このスマートシティ施策の推進にあたっては、地域内の各自治体のみならず、大学や企業、上位自治体であるカウンティカウンシルとも協力しています。今後は、環境、社会、経済の3分野でさらにスマート化を推し進めるとともに、市民からの需要について応えるべく可能性を模索していくとのことでした。

【画像:レスター市役所の方との集合写真】

バックハーストヒル・パリッシュ・カウンシルにおける自治体運営

バックハーストヒル・パリッシュ・カウンシルは、ロンドン近郊のパリッシュです。パリッシュとは、教会教区を起源とする地域共同体的な性格を持った準自治体です。(すべての地域にあるものではありません。)
バックハーストヒルのパリッシュは、11名の議員と7名の職員で構成されており、事務所は地域の図書館内にあります。このパリッシュでは公民館や共同農園、公園などの管理・運営を行っており、カウンシルではこれら管理・運営に関することや、地域イベントの開催、若者への支援策などを討議しています。若者の支援については、セカンダリースクール(日本の中学校・高校に相当)卒業後に進学も就職もしない若者に対して、子どもや若者の支援を行っているチャリティ団体と連携し、議長が自ら学校等へ赴き、若者自身の意見や要望を聞き取り、若者が活躍しやすい地域のあり方を検討していました。また、環境への取組については、駐輪場や電気自動車の充電施設の設置、生ごみをたい肥化するコンポストの設置なども検討されていました。なお、新型コロナウイルスのパンデミックによる地域への影響が大きかったことから、このパンデミックを契機としてパリッシュ内にワーキンググループが発足し、地域内の花壇の整備や記念碑の設立を検討しているとのことでした。

【画像:バックハーストヒル・パリッシュ・カウンシルが管理運営する公園内にあったプレイグラウンド】

ティーズ・バレー合同行政機構による地域活性化

ティーズ・バレー 合同行政機構はイングランド北部にある5つの自治体で構成される行政体です。この合同行政機構の財源は、国からの補助金や工業団地に入居する企業からの賃借料等で賄われており、構成自治体は金銭的な負担をしていません。この合同行政機構では、特に地域の経済開発に係る総合的な計画の立案・実施をしており、例えばかつての鉄工所跡地を新たに流通基地として再開発する事業などを進めています。この流通基地は英国で最大の面積を持つフリーポート(税制面での優遇が受けられる港)となる予定であり、その再開発費用は2億ポンドにのぼります。再開発においては環境面も重視されており、水素プラントやCO2回収プラントなどの建造が進められていました。
このほか、この合同行政機構では国際空港も運営しています。Teesside国際空港は、2018年から機構により再公営化された空港で、国内各地、さらにはアムステルダムやギリシャのコルフ島などへの定期国際空路が開設されています。同機構では、この空港の弱点であった空港インフラの脆弱性及び周辺地域の魅力向上・ビジネスインフラの向上に注力しており、インフラ面ではショップ・レストラン・ラウンジなどの空港内商業設備の刷新、スムーズな搭乗・出入国手続きを可能とする窓口設備を拡充しました。また、周辺地域においては、空港の敷地に隣接する形でビジネスパークを開発するなど、地域と一体化した整備を進めているとのことでした。

【画像:Teeside国際空港】

ミドルズブラ・カウンシルが運営するビジネスハブBoho zone

ミドルズブラ・カウンシルは前述のティーズ・バレー合同行政機構を構成する自治体の一つです。ここでは、同自治体が運営するビジネス拠点「Boho Zone」についてお話を伺いました。

この「Boho Zone」は、大学をはじめとする幅広い主体が連携して地域のなかにデジタル・ビジネスの集積を図り、優秀な人材や企業の流出を防ぐことをめざすものです。
Boho Zoneは、オフィスや住居、スタジオスペース等を含むデジタル・ビジネス拠点であり、建設中のものも含めて10の建物で構成されています。充実したオフィス環境や住環境を確保しつつ、レクリエーションのためのスペースも用意することで、企業間の垣根を越えて入居者同士の交流を活発にし、新たなイノベーションが生まれやすい環境を実現しています。また、入居企業の配置にあたっては、可能な限り同じ建物内に同じ分野の企業が集まらないように配慮していました。
なお、Boho Zoneの近くにはデジタル分野において高い評価を受けているTeesside大学があり、入居する企業には同大学出身者が多いなど、Boho Zoneと同大学の結びつきは強いとのことでした。
このBoho Zoneによる開発計画や運営方針の策定にあたっては、カウンシルに加えて、ティーズ・バレー合同行政機構、大学、NPO/NGO等の様々な関係機関が携わっています。計画のなかでは、2025年までに英国の平均を上回るデジタル分野の成長率を達成し、英国有数のデジタル・ビジネス拠点を実現することが目標とされています。

【画像:ミドルズブラ・カウンシルが運営するビジネスハブ】

ストックトン・オン・ティーズ・バラの市街地活性化

ストックトン・オン・ティーズ・バラも、ティーズ・バレー合同行政機構を構成する自治体の一つです。同自治体内には、イギリスで最も広いと呼ばれている市街地があります。この市街地には2つの大きなショッピングセンターも立地していますが、老朽化が進んだこと等によりどちらもテナント入居率が70%ほどに下がっていました。
ストックトン・オン・ティーズ・バラは、地域の再活性化の一環として、市街地の大規模な再開発に取り組んでいます。この再開発のなかでは、新たにホテルやNHS(国営医療サービス)が入居する施設を建設するほか、川沿いのエリアも再整備して自然を楽しむことのできる親水公園を作る予定が立てられていました。
そのため、市では、上述の2つのショッピングセンターを買い取り、そのうちの一つを完全に取り壊して新たなスペースを創出しようとしています。現在は、取り壊す予定のショッピングセンターに入居している店舗をもう一方のショッピングセンターや商店街に移転させているところです。これにより、商店街の空き店舗を減らすとともに店舗の集約化を図り、街に活気を取り戻すことをめざしています。また、現在は川沿いを走る道路も市街地内を通るように付け替えられる予定です。
巨額の費用が想定される大事業ですが、この自治体では、これらの再開発に民間資金を導入しているとのことです。英国自治体の非常に積極的な姿勢に圧倒されながらお話をお聞きしました。

【画像:再開発イメージの写真が掲示されているショッピングセンターの店舗】

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