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ADレポート「『サステナブル・フード・シティ』金賞受賞のブリストル市の取組み」

2021年07月30日 

英国ブリストル市は、食に関するサステナブルな取り組みで知られており、今年 5月に、 Sustainable Food Places Board. による表彰において、「サステナブル・フード・シティ」として、念願の金賞を受賞した。Sustainable Food Places Board. は、生産から消費に至るフードシステムを見直すことで、社会問題、環境問題、経済的な問題の解決を推進する団体である。

ブリストル市は、2016年に銀賞を受賞しており、ブリストル市役所とブリストル・フード・ネットワークを含む4団体が、金賞を受賞するために、Going for Goldという18か月間に及ぶキャンペーンを主導してきた。地域のフードビジネスからコミュニティガーデン、学校、農場、廃棄物処理場まで、ブリストル市のあらゆる市民を巻き込み、街が一丸となった背景には、持続可能かつ、健康的でフェアトレードな食は、人にも地球にも街にも良く、すべての住人が手にできるようにしたいという人々の想いを結集できたことがある。

食を通じたサステナビリティに取り組む理由について、ブリストル・フード・ネットワークのディレクターは次のように述べている。「私たちがどのように食べ物を生産し、取引し、食べ、廃棄するかということは、今日私たちが直面している最も差し迫った問題-気候や生態系の崩壊から人間の健康や福祉、貧困や正義から動物福祉-に影響を与えています。(略)」

取組は、食品廃棄物の削減、食を通じたコミュニティのサポート、エシカルな食品の購入、都市部での食料栽培の拡大、環境負荷の少ない食事、フェアトレードの6つの観点から行われた。以下、ブリストル市における具体的な取り組みについて紹介したい。

Grow Wilderは、野生生物に配慮した農業への転換を推進する教育センターである。生産性を高めることによって高い収益を得るために、一定の土地に対して多くの労働力と農薬や肥料などの資本を集中的に投入する農業は、生態系の危機の主な原因となっている。自然に優しい方法で食物を育てれば、野生生物の生息地を改善し、その結果、健康的で手頃な価格の食物を収穫するサイクルを支えることができる。同教育センターでは、より多くの人々が持続可能な方法で食物を育てることが可能になることを目指しており、農業の手法と農業で起業するためのスキルを習得することができる。

FOODクラブとは、貧困家庭を対象として、 食料支援を提供するプログラムであり、複数の団体により実施されている。クラブは、育児支援を行うChildren Centresや遊び場の付近にあり、利用のしやすさが保障されている。支援を受ける家庭は1ポンドの年会費に加えて、1週間に3.50ポンドを支払うと、最大15ポンド相当の食品を受け取ることができる。コロナ禍では収入が不安定な家庭が増えたために、拠点を増やしてきた。クラブの運営体制は、Children Centresのスタッフが、地域における家庭のニーズを把握しているため、食料を最も必要としている人々に確実に届けることができる。食料品はFare Share South Westという団体によって品質が良く手頃な価格のものが提供される他、地元の農園や食品会社からも余剰食品が提供され、フードロスを減らすことにも貢献している。

Children’s Kitchenは、貧困家庭が多い地区の保育園児とその家族を対象にしたプログラムである。このプログラムは、子供たちが、新鮮な季節の食材についての知識を深め、食材に親しみを持ってもらうことを目的とし、Feeding Bristolという団体が、毎週保育園を訪問し、子供が主体となる栽培と調理のセッションを行っている。このプログラムにも多くの団体が関わっている。Incredible Edible Bristolは、保育園内に畑をつくり、Fare Share South Westは、調理に必要な食品を提供し、91 Waysは、子どもたちのためにレシピや料理ビデオの作成を支援している。また、FOODクラブの支援を受けている家庭を対象に、料理教室を開催し食材の試食や、調理方法を教えている。このアクティビティは、支援を受けている家族が自信とスキルを身につけ、自立に繋がることを目的としている。この料理教室を開催する上で、ブリストル大学は、プログラムの効果測定を行い、プログラムの改善に協力している。

西イングランド大学は、サステナブル・フード・プランを作成・公開しており、2030年までにネット・ゼロを達成できるよう取り組んでいる。大学のサステナビリティチームは、運営管理部門と協力し、100のサステナビリティ・コミットメントを生み出した。例えば、ケータリングについては、2018年9月に、温かい飲み物の使い捨てカップに20ペンスの課税を導入した。この制度が導入されてから 再利用が可能なカップの使用率は13%から40%以上に増加した。また、食堂において、植物由来のメニューの選択肢を3分の1以上に増やし、持続可能で健康的な食事のプロモーションを実施している。さらに、2006年にフェアトレード大学として認定されて以来、2021年3月時点で累積でフェアトレード商品への支出は、100万ポンドを超えている。同大学では、持続可能性コースを選択している学生もサステナブル・フード・プランの評価に加わり、プランを主体的に推進している。

ブリストル大学は、Sustainable Food Action Planを作成し、食にまつわるあらゆる面でのサステナビリティに取り組んでいる。

1つ目に、エシカルな食料調達が挙げられる。すべての食品調達は、大学が規定する「エシカルかつ持続可能な食品ポリシー」に沿って決定される。すべてのサプライヤーは、大学のケータリングのコンソーシアムに加盟しているため、ポリシーに反していないか管理されてる。つまり、大学が提供する食品は、スタッフ、学生、訪問者の健康を向上させるだけでなく、地球環境を維持することにもつながる。

2つ目に、大学は「食品廃棄物ポリシー」に基づいて運営されており、食品廃棄物を可能な限り最小限に抑えている。食品廃棄物が発生した場合は、地元の会社に持ち込まれ、酵素の働きによって有機物を分解することにより、堆肥やエネルギーに変換し、地元の家庭に電力を供給している。

3つ目に、コミュニティガーデンでの活動が挙げられる。キャンパスにはコミュニティガーデンがあり、各学生寮にも、コミュニティガーデンとコンポストが設置されている。また、難民の支援を行っている学生グループは、教会の近くの中のコミュニティガーデンで週末に一緒に農作業をするプロジェクトを始動した。どのような野菜や果物を栽培するかは、ボランティアで参加している難民が主体的に決められる。このプロジェクトの参加により、難民が地域にとって貴重な存在であることを実感できることを目的としている。

この他にも、学生ボランティアによるフードバンクへの余剰食糧の寄付、地産地消や、肉の消費量の削減、フェアトレード製品を推進といった取り組みがある。

<所感>

ブリストル市における取組みは、様々な団体による協力のもとで成り立ち、健康だけでなく、街と地球環境にもよい食事を、すべての市民が享受できるようにしたいという一つの想いにより、街が一丸になることができている。ブリストル市は2016年にサステナブル・フード・シティの銀賞を受賞しているが、その際、120を超える団体がグッド・フード・ムーブメントという取組みを行い、受賞に貢献した。 今回の金賞受賞は、これらの団体の活動の上に成り立つものだという。食事は日々欠かせないものであるからこそ、サステナビリティを意識することで、健康のみならず、気候変動、コミュニティの形成において、大きな影響を与え得る。こうした視点から、引き続きブリストル市の取り組みについて注目していきたい。

(所長補佐 萩ノ脇 2021.7)

出典

Home | Sustainable Food Places

Bristol – Gold Food Sustainable City | The Bristol Mayor

Bristol’s bid to become a Gold Sustainable Food City by 2020 | The Bristol Mayor

Bristol-Going-for-Gold-HQ-4.pdf (goingforgoldbristol.co.uk)

Going for Gold Champion | Green university | University of Bristol

Bristol University students launches gardening project for refugees | Bristol City of Sanctuary

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