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ADレポート「ドイツにおける市民参加型予算制度 ~ブランデンブルク州エバースヴァルデ市の事例から~」

2021年09月22日 

はじめに

「市民参加型予算制度」とは、地方自治体の予算の使い道について住民の意思を反映させる仕組みで、1989年にブラジルのポルトアレグロ市で初めて採用された。日本でも、一部の自治体で導入されており、最近では、三重県が2020度予算案の編成から「県民参加型予算」 を導入している。

一方、ドイツで本制度への関心が高まったのは1990年代後半以降であり、2000年代前半頃からは、ポルトアレグロ市の事例に影響を受けつつ、独自の諮問的な市民参加手法(「情報-コンサルテーション(協議)-釈明」)を発展させてきた。本制度は市民参加の一環として位置づけられているが、近年では、節約・増収を市民に受け入れやすくすることを目的に導入されている事例もみられる。また2017年現在では、78の自治体で導入されているが、市民参加型予算の編成プロセスは標準化されておらず、自治体の数だけ様々な参加型予算がある。
今回のレポートでは、ドイツの中でもモデル事例として知られているブランデンブルグ州エバースヴァルデ市の取組みを紹介したい。

1 エバースヴァルデ市における市民参加型予算制度の導入
エバースヴァルデ市(人口4.1万人)の参加型予算は、2008年から導入された。当初は、予算を提示し、市民からの提案を募集、行政の評価を経て、議会で最終決定というプロセスだった。その後、様々な議論を経て、2012年からは現在の手法である「住民が提案し、投票して決める」というダイレクトなプロセスに変更された。

2 同市による参加型予算制度の概要
参加型予算制度の予算額:年10万ユーロ(約1300万円)
参加者:エバースヴァルデ在住の14歳以上の者
提案内容:1件あたり15,000ユーロ(約200万)以下の提案、市が実現可能であるもの
提案時期:年間を通して提出可能
提案決定:市民投票で選ばれる
※ 市民予算から助成金を受けている団体や組織は、3年間市民予算の資金を受け取ることができないよう規則を設けている。

3 市民参加型予算の編成プロセス
(1)第1ステップ:提案の提出
提案は、電子メール 、電話、郵便 、専用ウェブサイトのほか、役所でも受付可能
(2)第2ステップ:提案の審査
参加型予算編成に関する規則に沿って提案を審査
(3)第3ステップ:投票
市民予算の投票は公開イベントで、飲食提供や音楽演奏も行われる。
身分証明書を提示し、5枚の投票コインを受け取り、その投票コインを提案用の容器に分配する。
(5枚すべてを1つの容器に入れるか、分配するかは自由)
投票終了後は、投票コインの集計が行われ、最も多くの票を獲得した提案が、翌年の市民予算で実施されることになる。

 

 

 

 

2021年9月11日(土)に投票イベントが実施された。飲食・ライブミュージック演奏も行われ、ライブストリームでも配信された。2,358人が投票し、来年は8プロジェクトが実施されることになった。

【今年の投票イベントの様子】

 

 

 

 

4 参加型予算制度が「市民のローカルアイデンティ」を育む
同市の参加型予算編成プロジェクトマネージャー兼スポークスマンであるLars Stepniak氏は、同市の取り組みに関し次のように述べている。
「市民の予算は、街全体の発展のビジョンを示すものではありません。目に見える成果を確保し、プロジェクトを実行することです。自分で決めて、次の年に結果が出るというのは、人にとって貴重な体験で、それが信頼を生み、ローカル・アイデンティティを生み出します。さらに、市民は市民予算を通じて、1メートルの舗装、ドッグランの費用など、自分の街について多くのことを知ることができます。そのため、エバースヴァルデの人々は、自分たちの興味や提案に沿って学ぶことができます。他の手続きのように、参加者は事前に情報や数字、統計などの分厚い冊子を渡されて死ぬほど苦労することはありません。」

おわりに
エバースヴァルデ市の投票日における投票率は人口比でみると5パーセントであり、決して高い参加率とは言えない。しかしながら、長期的な視野で考えると、上記の Lars 氏の言葉のように、ローカルアイデンティティが育まれる土壌づくりにつながる可能性は高いと思われる。また、14歳という若年層が参加できるという点も注目すべきだろう。若年層の実践的な民主主義教育としても有用であるとともに、若者自身が社会の一員であることを認識する良い機会になるのではないだろうか。

なお、ドイツ国内で本制度を導入する自治体が年々増えているわけではない。フランクフルト・アム・マイン、ハンブルグ、オルデンブルグなどのように制度を中止した自治体もある。現在、フランクフルト・アム・マインでは、「Frankfurt asks me」というプロジェクトを実施しており、年間を通して市民提案をできるだけではなく、道路や遊具等の不具合も報告できるアプリを提供している。

エバースヴァルデ市は、現在に至るまでに、何回も規則を変更しながら工夫を重ねてきた。これまで継続できたのは、やはり行政側にとっても、この敷居の低いアプローチで様々なアイデアや提案、要望を得られるメリットがあったからだろう。日本の自治体でも市民参加施策を考えるうえで、このエバースヴァルデ市の市民参加予算制度は、参考となるのではないだろうか。

参考リンク
・ Eberswalder Bürgerbudget Twitter
https://twitter.com/buergerbudgetew
・ Eberswalder Bürgerbudget website
https://www.eberswalde.de/start/rathaus-ortsrecht/haushalt-finanzen/buergerbudget
・ Lars Stepniak氏へのインタビュー記事
https://www.buergerhaushalt.org/de/article/herzkatheter-spritzkuchen-und-buergerhaushalt-die-exportschlager-aus-eberswalde
・フランクフルト・アム・マイン
市民参加を容易に – 「Frankfurt asks me」プラットフォームの新アプリを発表
https://www.ffm.de/frankfurt/de/home/info/id/995
・(財務省)三重県庁の参加型予算「みんつく予算」の取組について
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202005/202005j.html
・(三重県)県民参加型予算「みんなでつくろか みえの予算」(みんつく予算)
https://www.pref.mie.lg.jp/ZAISEI/HP/p0019400004_00001.htm

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