調査・研究

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英国

英国の学校閉鎖の現状について

2021年02月05日 

はじめに(2月5日時点の状況)
英国では、新型コロナウィルス感染増加を受け、今年1月から学校が閉鎖され、教育サービスはリモート学習により継続されることとなった。なお、キーワーカー(医師、看護師など)の親を持つ子どもは、引き続き学校で学習できるなどの例外が設けられている。
英国における教育行政に関する権限は、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドのそれぞれの政府に委譲されており、対応が異なる部分もある。例えばスコットランドでは、保育園も閉鎖対象に含まれたが、イングランドの保育園では「幼児の感染リスクが低いこと」と「仕事がある保護者のため」ということで、子どもたちを受け入れ続けている。

英国政府(イングランド)の対応について
英国政府は、リモート学習への切替以降、ノートパソコンの配布、Wi-fi-ルーター貸し出し、無料給食拡大などの支援を実施してきた。また、学校再開後は、失われた学習時間へのフォローアップのため、数億ポンドの予算を投入する予定だとしている。英国シンクタンクの財政研究所(Institute for fiscal study)は、この学校閉鎖の影響により、「子どもたちは、生涯の収入で£40,000(約580万円)を失うことを意味する」と指摘している。またそれだけでなく、将来的には国の財政はじめ、不平等、well beingにも繋がるとも示唆しており、今後、より深刻な問題が浮かび上がってくるかもしれない。

ロンドンのInfant schoolの事例―筆者の体験からー
筆者の例で言うと、昨年12月31日、4歳の娘が通う学校(infant school※)から新学期はリモート学習に移行するという連絡が入った。学校は、以前から、ロックダウンによるリモート学習に備えて、保護者と先生が相互交流できるオンラインプラットフォームを無料で提供しており、平常時は、先生が子どもたちの学校での様子を写真や動画でアップロードしてくれる場となっていたが、現在は、先生が課題を提供する場に、保護者が子供の写真や課題を提出する場となっている。
授業は、ZOOMを利用した授業が午前・午後にそれぞれ30分ずつ。4歳児にとっては、画面を30分近く見続けるのは至難の業である。もちろんその時間は、隣で保護者がパソコンの操作や授業のサポートする必要がある。娘のクラスの半数以上は海外出身で、まだ英語も十分に話せない子どもが多い。そのような中でも、先生はいつも1人1人に「Great! Brilliant!」と声かけをし、間違えてもチャレンジすることを褒めてくれ、前向きな気持ちにさせてくれる。
また、学校側の学習環境への支援としては、はじめにノート、ホワイトボード、ペン、学習プリントセットが学校から支給された。加えて、必要のある家庭には、学校がタブレット端末を貸し出すほか、Wi-Fi環境がない家庭には、本人の代わりに学校が政府に対しモバイルデータ通信に関する申請を行ってくれる。もともと経済的な事情でパソコンがないという家庭はもちろんだが、兄弟が多いと授業時間も重なる可能性があり、通信速度に支障が出ることもあるため、このような支援は非常に有益である。
※Infant schoolは、4歳~7歳までの子が通う小学校。英国は5歳児から義務教育が始まるが、4歳のクラス(Reception)から入学するのが一般的である。

望まれる学校再開だが・・
学校再開へ向けての方針も、各政府により異なる。2月下旬に再開する見込みを発表したスコットランドでは、プライマリースクール(日本の小学校に当たる)低学年の子どもたちはフルタイムで再開する一方、上級生は、授業時間を短縮する方向だ。セカンダリースクール(中等教育)については、生徒数5%から8%の間だけが一度に出席するよう予定している。
現在、英国の中で感染率が最も低いウェールズでは、政府が2月下旬に再開を望んでいるが、教員組合からは「対面授業に従事する教育労働者にはワクチン接種を優先的に受けられるようにし、すべての教育労働者に効果的で十分な PPE を用意する必要がある」と要望が出されている。イングランド・北アイルランドは現時点では3月上旬の予定としており、再開についてのロードマップはまだ公表されていないが、あくまでも目安であって、ワクチン接種の進捗具合や科学的見地に基づき、今後正式に発表される。

おわりに
今振り返ると、昨年12月のロックダウン明けから感染者増加に歯止めがかからず、不穏な雰囲気は出始めており、その時点で冬休み明けには学校が閉鎖されるという可能性は予想されていた。残念ながらその予想が的中してしまったわけだが、保護者の中には、「昨年3月の学校閉鎖時には、リモート学習もなかったので、今回は良かった」いう人もいれば、「共働き家庭で仕事をしながら先生の代わりをするのは非常に困難だ」という声もあり、家庭状況によって感じ方は様々である。
現在、英国では、全人口における第1回目のワクチン接種率は20%(2月4日時点)、ロックダウンの効果により、感染者数も減少傾向に向かっている。まだ楽観できないが、子どもたちが友達に会える日も、そう遠くないかもしれない。

(所長補佐 新野 2021.2)

<参考リンク>
● 政府のリモート学習支援制度
https://www.gov.uk/guidance/get-help-with-technology-for-remote-education-during-coronavirus-covid-19#get-funded-training-and-support-to-set-up-and-use-technology-effectively
● Covid: When will schools reopen?  (BBC)https://www.bbc.co.uk/news/education-51643556
● Children of critical workers and vulnerable children who can access schools or educational settings
https://www.gov.uk/government/publications/coronavirus-covid-19-maintaining-educational-provision/guidance-for-schools-colleges-and-local-authorities-on-maintaining-educational-provision
● ウェールズの学校再開について(BBC)https://www.bbc.co.uk/news/uk-wales-55919366

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