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調査・研究

地方自治体等訪問

地方自治体等訪問レポート「London Borough of Tower Hamletsを訪問」

2026年09月02日 

 【概 要】
2026年8月14日、英国の地方自治体等が取り組む施策や行政課題などを学び、日本の自治体行政に資する知見を得ることを目的に、London Borough of Tower Hamlets (以下「LBTH」という。) を訪問した。今回の訪問では、LBTHに勤めている日本人職員大川恵子氏を講師に、LBTHの事業計画・戦略計画の体系や住宅問題についての話を伺い、英国自治体における政策形成の流れや住宅不足に係る取り組みに関する示唆を得ることを目指した。 

LBTH 訪問】
○自治体概要
LBTHは、ロンドン東部に位置する32のロンドン区の1つで、区内にはCanary Wharf、Whitechapel、Isle of Dogs等がある。金融・ビジネスの中心地と歴史ある住宅地域が共存し、人口増加が著しく、若年層や英国外出生者が多い国際色豊かな地域である。特にバングラデシュ系コミュニティの存在が大きく、多様な文化や食、商業が地域の特徴になっている。一方で、住宅不足や高い家賃、貧困、過密住宅などの課題も抱えており、アフォーダブル住宅の供給、教育・若者支援、生活費対策が主要な政策課題になっている。 

○事業計画・戦略計画の体系
LBTHでは、10年間の長期的なビジョンから職員個人の年間目標まで、各階層の計画を一貫して連動させる仕組みを採用している。この各階層の繋がりは「Golden Thread」と呼ばれ、上位計画の目標が下位の計画及び部署、個人の業務へ落とし込まれている構造となっている。 

各計画については以下のとおり。 

○住宅問題
<人口増加と過密居住>
LBTHの人口は、2011年から2021年までの10年間で約22%増加し、イングランドで最も高い人口増加率となった。さらに、2022年から2032年までの10年間でも約20%の増加が見込まれている。既に人口密度が極めて高い中、人口増加によって住宅、公共サービス、生活環境等の都市問題が一層顕在化している。
LBTH全体の平均所得は、区内のビジネスエリアに勤める若年層がLBTHに居住することにより、改善して見える一方、従来から公営住宅等に居住する低所得者層の困窮は、統計上見えにくくなる傾向がある。特に、子どものいる世帯や高齢の年金生活者の所得が低い状況である。
また、住宅費の高騰や住宅不足が重なり、寝室が2部屋しかない住宅に三世代が暮らしていたり、7~8人が生活していたりする場合もあり、過密居住(overcrowded)が深刻な問題となっている。 

 <アフォーダブル住宅について>
アフォーダブル住宅とは、住宅価格・家賃が高い地域において、一般の市場価格では住宅を確保することが難しい人々に、市場価格より低い価格・家賃で提供される住宅のことをいう。
具体的には、自治体やHousing Association等が提供する、低廉な家賃で提供されるSocial Rent、市場価格より低廉な家賃で提供されるAffordable Rent、住宅の一部を購入し、残りの部分については家賃を支払うShared Ownershipがある。
LBTHの場合、住宅価格・家賃が非常に高く、公営住宅の待機世帯も約3万世帯に及ぶことから、アフォーダブル住宅の確保が重要な政策課題となっている。 

<住宅の需給ひっ迫>
英国におけるホームレスは、路上生活者に限らず、自ら所有又は賃借する住居を持たず、友人宅等に一時的に滞在する者も含む。ホームレスに至る主な原因としては、家族関係の破綻、DV、失業等による家賃滞納などが挙げられた。
LBTHにはホームレスやホームレスになる恐れのある人を支援する義務があり、民間賃貸も含めたTemporary Accommodationを確保する必要があるが、公営住宅等が不足しているため、ロンドン域外の遠方の住宅を借り上げる場合もある。こうした費用は自治体財政を大きく圧迫しており、住宅・ホームレス対策はLBTHの財政運営にも直結する課題となっている。
また、公営住宅とHousing Associationが所有する住宅に居住を希望する人は、Housing registerという共同リストを通じて管理されている。入居希望申請は3万世帯を超える一方、空きが生じる住宅は年間で概ね1,000~2,000戸とされている。DV被害者や医療上の必要性がある世帯等の、優先順位が高い場合でも直ちに入居できないほど住宅が不足している。
LBTHでは、将来の土地利用・都市開発について定めたLocal Planの更新作業が進められており、更新後のLocal Planでは、新規住宅の約50%をアフォーダブル住宅とする目標を掲げる予定とのこと。また、首長主導で、LBTHが所有する土地を活用し、民間事業者による住宅建設を促進する取り組みも進めており、最大約3,300戸の供給が見込まれている。 

研修の様子 

【所 感】
今回の訪問を通じ、LBTHでは、人口増加や住宅価格・家賃の高騰、住宅の過密化等、地域が直面する課題を明確に捉えた上で、Strategic Planを起点として各分野の施策を具体化していることが印象的であった。日本の自治体と比較すると、行政計画の体系そのものには共通する部分が多いが、LBTHのStrategic Planは、市長のマニフェストを行政運営に直接反映し、4年間で実施する政策を明確に打ち出している点が特徴的である。
住宅政策については、日本の自治体との違いがより顕著であった。日本では、人口減少や空き家増加が住宅政策上の課題となっている地域が多く、既存住宅ストックの活用や空き家対策の重要性が増している。一方でLBTHでは、今後も人口増加が予測されており、住宅の絶対的な不足に加え、家賃が低廉なアフォーダブル住宅も不足している。このため、「住宅をどのように有効活用するか」だけではなく、「限られた土地の中で、必要な住宅をどれだけ新たに確保するか」が行政の大きな課題となっている。民間開発を住宅政策の実現手段として活用している点も興味深く、民間事業者やHousing Association等との連携を図りながら、行政が計画や制度を通じて住宅供給を促している点は、日本の自治体運営を考える上で非常に参考となった。 

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