【概 要】
2026年7月24日、英国の地方自治体等が取り組む施策や行政課題などを学び、日本の自治体行政に資する知見を得ることを目的に、Sevenoaks Town Council (以下「Sevenoaks TC」という。)を訪問した。今回の訪問では、Sevenoaks TCの概要や、Sevenoaks TCが提供する地域サービスについて話を伺うとともに、同自治体内にある施設(Bat & Ball Station, Bat & Ball Centre, Greatness Recreation Ground, Vine Gardens, Stag Theatre & Cinema)の視察を行い、住民サービスや公共施設の管理・運営の実態及び自治体の取組について学び、住民参加のまちづくりや地域活性化の取り組みに対する示唆を得ることを目指した。
【Sevenoaks TC訪問】
○自治体概要
Sevenoaks TCは、イングランド南東部Kent州Sevenoaks District内に設置された、地域共同体的な性格を持つ法律上の準自治体であり、公園やコミュニティ施設等の運営・管理、イベントの実施、環境保全など、地域に密着した幅広いサービスを担っている。
○Bat & Ball Station, Bat & Ball Centre
Bat & Ball Stationは1862年に開業したSevenoaks地区で初の鉄道駅である。1992年ごろから駅舎は使用されない状態となっていたが、改修プロジェクトが2019年に完了し、現在は鉄道駅としての機能を維持しながら、コミュニティスペースやカフェなどを備えた地域の交流拠点として活用されている。 改修プロジェクトは、宝くじ(Heritage Lottery Funds)を主な財源として、Sevenoaks TCの主導により行われた。
また、Bat & Ball Stationに隣接するBat & Ball Centreの視察も行った。Bat & Ball Centreは、老朽化した既存のコミュニティセンターに代わり、新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも2020年に完成した施設である。施設内には大小2つのホール、会議室、キッチン、庭園、多目的スポーツエリアが整備されており、幅広い用途で利用されている。

Bat & Ball Station駅舎

Bat & Ball Centreの大ホール
○Greatness Recreation Ground
当該施設は、Sevenoaks TCと地元フットボールクラブが共同で整備を進めている新たなフットボールパビリオンである。2026年7月24日の訪問時点では建設工事中であった。 施設内には、チーム用の更衣室、シャワー室などの施設に加え、バリアフリーのトイレや更衣室を整備し、多様な利用者への配慮が図られる。太陽光パネルやグリーンウォールなどの環境配慮設備も導入される。 整備財源については、フットボール・ファンデーション(イングランド・サッカー協会などによる共同組織)からの拠出金やSevenoaks TCの予算などに加え、Sevenoaks District Council Communityがこれまでの開発で事業者から得た資金からの負担金を活用しているとのこと。
なお、施設完成後は、原則フットボールクラブが施設の管理・運営を担うとされている。 今後は施設周辺の整備も進め、新たな遊び場や事務所の設置など、地域交流拠点としての機能強化を検討しているとのこと。旧パビリオンの活用方法についても地域住民とともに用途を検討する予定と説明があった。

フットボールピッチ

建設中の施設外観
○Vine Gardens
Vine Gardensは現存する最古級の一つとされるクリケット場を中心とした公園であり、スポーツ施設としての機能に加え、地域住民の交流の場として活用されている。園内には、リサイクルプラスチックを活用し、環境に配慮された舗装が整備されているほか、夏季にはバンドスタンドでの音楽イベントなど、多様な地域イベントも開催されている。管理主体はSevenoaks TCである。公園内には高齢者施設や地元の学校が制作した作品などが展示されており、世代を超えた地域参加の様子を伺うことができた。

クリケット場

バンドスタンド
○Stag Theatre & Cinema
Stag Theatreは旧映画館を活用した地域文化施設であり、映画上映に加え、演劇やコンサートなど、多目的に利用されている施設である。施設内には二つの映画スクリーンのほか、劇場ホール、バー、展示スペース等を備えており、地域住民が文化芸術に触れ、交流できる拠点として活用されている。 運営にあたっては、映画上映、公演、バーなど複数の事業収入を組み合わせて財源を確保するとともに、多くのボランティアが受付や案内、公演運営に携わるなど、地域住民との協働による体制が構築されている。
映画上映については、主な利用者層である子育て世帯や高齢者を意識した作品を選定しているほか、演劇やオペラのライブビューイングなど、映画以外のコンテンツも上映し、多様な利用ニーズに対応している。また、地元アーティストの作品展示や小規模ライブの開催など、地域文化活動の支援にも積極的に取り組んでいるとの説明があった。
また、施設には、11~17歳を対象としたHouse in the Basement Youth Caféが併設されており、簡単な飲食スペースも設けられている。若者が集い交流できる場として無料で利用が可能で、ゲームや楽器の演奏、イベントなどを通じたユースワークが行われている。

映画上映室

Youth Café
○Town Council庁舎
Sevenoaks Town Council庁舎において、MayorであるVictoria Granville氏と面会を行い、Chief ExecutiveであるLinda Larter氏からSevenoaks TCの概要と、 Chief Executiveの役割、地域団体との連携などについての説明を受けた。Sevenoaks TCは年間約200万ポンドの予算を有し、約60名の職員が勤務している。主な財源はPreceptと呼ばれる地方税であり、Town Councilによる付加税としてCouncil Taxと併せて住民から徴収される仕組みとなっている。また、施設使用料や助成金等も活用しながら各種事業を実施しているとの説明を受けた。
- Chief Executiveの役割
議会運営全般の統括、自治体の公式行事への対応、イベント運営の総括などを担うほか、公共施設の整備や新たな行政機能に係るプロジェクトの管理を担っている。 - グリーンアジェンダの推進
古代林の保全をはじめ、電気自動車充電設備の整備、気候変動をテーマとしたイベントの開催、リサイクル素材を活用した公共空間の整備など、環境施策を積極的に進めている。 - Sevenoaks Town Neighbourhood Plan (STNP)を活用したまちづくり
STNPは、住民参加により自分たちの地域の将来像や土地利用の方針を定める計画である。STNPを正式に採択するには、住民投票で過半数の賛成が必要となる。住民の意見を集める作業は、住民投票の前から多数の住民ワークショップや意見交換会を通して何度も行われる。
- 地方自治制度改革について
現在、イングランドでは地方自治制度改革が進められており、Kent州では、Kent County CouncilとSevenoaks District Councilを含む現行の二層制からUnitary Authorityへの再編が予定されていることについて言及があった。これに伴い、新たなUnitary Authorityの選挙が実施され、その後1年間は新旧自治体が並行して業務の整理や組織体制を整備する移行期間が設けられる予定であるとのこと。
Mayor Victoria Granville氏との集合写真
【所 感】
今回の訪問では、Sevenoaks TCが地域団体やボランティアとの協働を通じて公共施設の管理・運営や地域サービスを提供している特徴的な取組を視察した。また、環境施策や住民参加によるまちづくり、文化施設の運営など、多様な主体との協働を重視した自治体運営の実態について確認した。特に、自治体が地域団体やボランティアと役割を分担しながら公共サービスを提供する仕組みや、施設運営の方法について視察することで、日本の自治体における地域との協働や施設運営の在り方を検討するうえで参考となる知見を得ることができた。
