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地方自治体等訪問レポート「ワイア・フォレスト・ディストリクト・カウンシルを訪問」

2025年07月22日 

職員を対象とした研修の一環として、2025年5月1日~2日の間、ワイア・フォレスト・ディストリクト・カウンシルを訪問した。同自治体はイングランドウェスト・ミッドランズ地方のウスターシャー州北西部に位置する人口約10万人、面積約195平方キロメートルのまちである。今回の研修では、同地で行われた地方選挙と都市再生プロジェクトに関する視察を行った。

5/1 投票所】

○ 選挙関連全般

    • Wyre Forest Districtは地理的に非常に広大な区域であるため、選挙区も広範となっている。人口動態の変化を受けて2023年にはCounty Councilで見直しが行われ、新たな選挙区の区割りが導入されているところ。各選挙区における有権者数は完全に均一ではないが、選挙区間で適切な有権者数のバランスが取れるよう設計されている。
    • 先順位当選制度(First Past the Post)が採用されており、1票差であっても最多得票者が当選する。投票にあたっては、候補者の名前が記載された投票用紙を使用し、原則として有権者は投票したい候補者の名前の横の欄に「X」の記号を記入して投票箱にいれることで投票を行う。しかしながら、投票者の意思が明確に示されていれば「X」以外の記入であって有効票として扱われる。投票すべき人数以上の候補に票を入れる等、投票意思が不明瞭な場合は無効票として扱われる。
    • 一般的に公共施設が投票所となることが多く、投票日は7時から22時まで投票可能。郵便による投票も可。
    • 投票所における投票の一般的な流れは下記のとおり。
    • 投票者は、写真付き身分証明書を提示して本人確認を受け、投票用紙を受け取る。
    • 投票用紙にはあらかじめ候補者の氏名と政党名が印字されているため、希望する候補者名の横に×印を記入し、投票箱に入れる。候補者は無所属として立候補することも可能。
    • 日本の投票用合成紙とは異なり、投票用紙には普通紙を利用。また、投票所には、車いす利用者向けに低めの投票台も用意されていた。
    • 英国には郵便投票(Postal Vote)の制度がある。郵便投票希望者はオンライン等で申請すると、自宅に郵便投票のための説明書、郵便投票申告書(Postal Voting Statement)、投票用紙及び封筒が届く。投票用紙に必要事項を記入し、専用の封筒に投票用紙を郵便投票明細と一緒に返送用の専用封筒に入れてポストに投函すれば、投票の手続きは完了となる。すでに郵便投票の申請を済ませている住民が投票所に来た場合、投票所で投票することはできない。基本的には、郵送で提出することが求められているが、投票締め切り時間までに郵送が間に合わない場合は投票所及び役場に直接提出することも可能。
    • 各投票所には、管理責任者と補助職員が配置されている。1つの建物に2つの投票所が併設されるような場合は、1人の管理責任者が両方を監督する場合もある。
    • 選挙管理を担当するチームのうち、常勤の職員は数人程度で、有権者登録業務から選挙の運営まで、一貫して業務を遂行する。その他の投票所で勤務する者や集計作業を行う者、郵便投票の処理を担当する者は、すべて有給の臨時職員である。
    • 投票所の外にTellerという方がいる場合がある。一般的にTellerは政党関係者で、選挙管理に関わる公的立場にはない。投票所を訪れる有権者から任意で選挙人番号を聞き取り、収集した情報をもとに未投票の有権者に投票を働きかけている。有権者の選挙意思を害する行為等がないよう、選挙委員が定めたルール等を遵守して活動することが求められる。

○ Polling Station in Cookley

    • 本投票所は1つの選挙区にある2つの投票区の投票所となっており、選挙区毎にElection of a County Councillor(郡議会選挙)とLocal Advisory Polls(地方諮問投票)用の投票箱が1つずつ設置されている。投票用紙には通し番号がふられており、選挙の種別毎に異なる色のものが使用される。

○ Polling Station in Blakedown

    • BlakedownはWyre Forest地区の北部に位置する村であり、その中にあるBlakedown Parish Roomsが投票所の一つとなっていた。本会場ではElection of a County Councillor(郡議会選挙)のみが開催された。職員が投票所を訪問した16時頃には、投票に住民が並んでいるような様子は見られなかった。7時前には、出勤前に投票を済ませるために、投票所の開場を待つ住民が並ぶこともあるという。

○ Polling Station in Chaddesley Corbett

    • Chaddesley CorbettはWyre Forest地区の南部に位置する村であり、Chaddesley Corbett Village Hallが投票所となっていた。
    • この投票所では、5月1日にWyre Forest District Council全体で行われていたElection of a County Councillor(郡議会選挙)に加えて、Local Advisory Polls(地方諮問投票)と呼ばれる住民投票も同時に実施された。日本でこのような地域ごとの投票が行われることは少ないが、Local Advisory Pollsは地方自治体などが住民の意見を把握する目的で実施するもので、その結果は政策検討の参考として活用され、必ずしも政策や施策に反映されるとは限らない。本投票所のLocal Advisory Pollsは、Kidderminsterの境界を変更し、ある小さな地域をKidderminsterに統合することに賛成か反対かを問う、Community Governance Review(地域行政の見直し)の一環として実施された。群議会議員の選挙とは、用紙の色を変えることによって区別しやすくされていた。

 

5/1 Regeneration Projects in Kidderminster】

○ 再生プロジェクトの概要

  • Wyre Forest District Councilが主導する都市再生事業で、まちの中心部であるKidderminsterの持続可能性と活力を強化するため、新たな雇用、商業、文化、エンターテインメント施設等を再整備することで、地域の魅力向上と持続可能な成長を目指しているものである。
  • このプロジェクト全体の予算は約4,500万ポンドであり、そのうち約3,840万ポンドは英国政府のFuture High Streets FundとLevelling Up Fundからの助成金で賄われている。残りの約660万ポンドをWyre Forest District Councilが支出している。

 

○ 再生プロジェクトの対象施設

同自治体のDeputy Chief ExecutiveであるOstap Paparega氏の案内のもと、当該プロジェクトの地域を歩きながら以下の4つの施設の再整備について視察した。

(1) Piano Building

1867年、Brintons社によって羊毛倉庫として建設された建築物。建物の独特な曲線形状が上空から見るとグランドピアノのように見えることからPiano Buildingと呼ばれており、歴史的建造物として重要とされるとなっている。今後の活用予定として、商業利用や地域文化の拠点としての再活用が検討されており、住民からも壊さないでほしいとの声が強く寄せられている。建物前の公共スペースに大型モニターを設置する構想もあり、地域の文化イベント、スポーツ観戦、屋外シネマなどに活用される予定。Piano Buildingとその前面広場を一体的にイベント会場として利用することで、まちの中心に人を呼び戻す目的があるとのこと。

※左手奥に見えるのがPiano Building

(2) Kidderminster Town Hall

こちらも歴史的建造物としての登録建築物となっている。過去にはLed ZeppelinやThe Rolling Stonesがコンサートをしたこともあるというコンサートホール兼イベント会場であったが、現在のプロジェクトでは、音楽ホール、カフェ、教育スペースを備えた文化交流の場になる予定とのこと。

(3) Worcester Street

かつてはKidderminsterのメインストリートの一部であったものの、空き店舗の増加等の影響から、近年は衰退が激しい場所であるという。再生プロジェクトとして、歩いて楽しい空間に変えることを目標とし、丘陵の地形を生かしながらベビーカーや車椅子も安心して通ることのできる遊歩道を整備した公園とする計画とのこと。

※Vicar Streetからみた Worcester Street

※工事完了後のイメージ図

(4) The Old Court

元裁判所の建物で、こちらも同様にとなっている。オフィススペース、大小のコワーキングスペース、ホール、3Dプリンター、ラボ、カフェなどを併設したデジタルハブにリニューアルされている。建物の裏には絨毯工場の倉庫の跡地を改装した広い空間もあり、イベント等の会場として活用を予定している。単なる施設の改修にとどまらず、デジタル産業の拠点としていくことで、クリエイティブな人材のハブとしての活用が期待されるとのこと。

 

○ 住民参画

    • 再生プロジェクトを進めるに当たっては、トップダウン的な合意形成ではなく、住民の意見を収集・反映させていく形式を採用したという。
    • 具体的な取り組みとしては、①ワークショップ、アンケート調査、公開議論、②基本計画策定の6ヶ月前に住民が意見を表明する機会の提供(≒パブリックコメント)、③重要セクションのデザイン設計への住民参画等を実施したという。
    • 再生プロジェクトの計画段階に、商店関係者・若者・高齢者・障害のある方・NPOや教育機関(大学や専門学校)など、施設を利用することの見込まれる多様な立場の方々が参画し、双方向型の意見調整を実施している。行政からの一方的な意思決定ではなく、住民が参画することによって、将来的な施設の利用者が単なるユーザーとしてだけではなく、自ら創り出した場所を自分たちで運営していくという心理を醸成する目的があったとのこと。
    • 実際に、若者が集まれる場所がないという声が多くあり、タウンホールや旧裁判所の再用途設計の際に、学習や創作、カフェの利用といったニーズに対応可能な機能が追加されたという。

 

5/1 Counting Venue – Wyre Forest Leisure Centre】

    • 投票を締め切った後、開票作業に向けて各投票所から投票箱が1か所に集められる。投票所の管理責任者が投票箱を会場に運びこみ、開票作業会場の責任者に引き渡すが、その際に投票箱内にあると想定される投票数を投票用紙集計報告書にて報告する。これは、投票者が投票せずに用紙を持ち帰る場合や、複数の選挙が同時に実施されている場合に誤って別の投票箱に投票してしまう等、発行された投票用紙数と投票箱内部の投票数が一致しない場合があるためである。開票作業会場の責任者は状況の聞き取り等を行いながら当該報告書を確認・受領し、報告書の内容は専用システムに入力されて実際の投票箱の中身と照合される。
    • 郵便投票として届く封書には、記入済みの投票用紙が封入された小型封筒と、投票者の署名および生年月日が記載された郵便投票証明書の2つが封入されていなければならない。郵便投票証明書については、受領後コンピューターでスキャンし、公的に登録されている本人の署名及び生年月日と合致するか照合される。封入物の不足や情報の不一致等がある場合は該当の投票は無効とされ、集計の対象外となる。
    • 郵便投票に係るよくある誤りとして、生年月日の代わりに投票日を記入する行為がある。こうした誤りを防止するため、郵便投票証明書に年号を事前に印刷しておく等の対策をとっている。投票が無効となった郵便投票者にはその旨通知される。
    • 一部の投票所では、地方選挙とLocal Advisory Pollを同時に行っていたため、複数の投票箱が設置されていた。有権者が投票用紙を適当な投票箱にいれるよう投票所職員が見守っているが、有権者が誤った箱に投票しても、誤りが発見された時点で適切な集計プロセスにのるようになっている。
    • 投票所では当該地区の有権者一覧を有しており、それをもとに投票状況を確認している。この名簿の写し(Marked Register)は選挙実施後に購入することができる。投票先までは確認できないものの、各有権者の投票参加状況を確認できるため、政治団体はこれを用いて以後の選挙キャンペーンに役立てている。

 

5/2 Wyre Forest House】

    • Wyre Forest HouseはWyre Forest District Councilの本庁舎である。2012年に開設され、Kidderminster及びStourportにあった庁舎から移転した。現在、 Kidderminster Town Councilの職員は一時的にWyre Forest Houseに勤務している。中心地に所在するTown Hallが前述の再開発の関係で改修中であることから、2012年に開設され、Kidderminster及びStourportにあった庁舎から移転した。現在、 Kidderminster Town Councilの職員は一時的にWyre Forest Houseに勤務している。モダンな建物で、District Councilや議会のほか、地元企業なども入居しており、建物の半分以上は民間企業への貸し出しとなっている。民間企業では、法律事務所や同地の伝統産業であるカーペット会社などが入居していた。
    • Wyre Forest District Councilでは現場での勤務が求められる一部の職種を除き、多くの職員がテレワークを行っており、必要に応じて職場に出勤していた。訪問時もオフィスの職員は少なく、広々とした空間が広がっていた。「成果をしっかり出せば、働く場所はどこでも構わない」と明るく語るChief Executiveの姿が印象的であった。
    • 一般職員の勤務エリアの横にはガラスの壁に囲まれたChief Executiveの部屋があり、その隣にはLeader (同地区の政治的・戦略的な方向性を与える人物。議員の中から任命され、Cabinet(内閣)を組閣。)の部屋が続いていた。

 

5/2 Counting Venue – Wyre Forest Leisure Centre】

    • 5/2は、前日に投票用紙を運び込んだ集計所にて開票作業が行われた。会場にはロの字に机が配置され、内側は開票担当者や選挙運営のコアスタッフの作業空間となっており、外側には開票結果速報を発表するための小ステージや全国の投票状況などを随時確認するための大型スクリーンが配置されていた。
    • コアスタッフや開票担当者は事前に会場入りし、Returning Officerによる職員間事務連絡を行った後、立候補者や政党関係者、メディアが入室した。定刻の10時になると開票作業が始まり、立候補者や政党関係者、メディア関係者がロの字に配した机の外側から開票の様子を見守る。なお、立候補者等は、至近距離で開票状況を見ることはできるが、投票用紙に触れて良いのは開票作業員等の選挙運営スタッフのみである。
    • 開票の流れは、大まかに次のとおり。

①選挙区ごとに投票箱を開け、中に入っている投票用紙の枚数をカウント。この作業はverification(検証)と呼ばれる。番号が投票用紙集計報告書と一致するか、あるいは複数回確認しても一致が確認できない場合、検証段階は完了となる。

②候補者ごとに投票用紙を振り分け

③各候補者の投票数をカウント

④集計が完了した選挙区から候補者を集め、暫定の開票結果を伝達。ここで候補者から再集計の要求があった場合、責任者は投票状況を見て再集計の実施諾否を判断する。票差が僅差の場合は、再集計の判断が下される場合もあるが、票差が大きい場合は要求が却下されることもある。

⑤候補者の中で開票結果に異議がなければ、Returning Officerは会場に設置された小ステージで開票結果をメディア及び来場者に発表する。開票結果はWyre Forest District Councilの公式SNSでも配信される。

    • 結果が発表された後に不正等の疑いがある場合は、立候補者等が裁判所申し立てることができる。
    • 日本と英国の開票・集計作業の大きな違いの一つは、開票プロセスに立候補者や党関係者、メディアが直接立ち会う点にあるといえる。立候補者や党関係者は、各開票担当者の前に張り付き、上述①のステップから各投票用紙に記載された情報を身を乗り出すようにして見て、投票状況をメモしていた。緊迫した空気が漂う一方、開票プロセスをすべてオープンにしているため大変透明な選挙運営であるともいえる。
    • ⑤の開票結果発表では、当選者が明らかになると、各政党の関係者は互いの健闘を称えあうように拍手を送り合っていた。
    • Wyre Forest DCにおける開票結果は次のリンクのとおり。Election results | Wyre Forest District Council
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