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地方自治体等訪問レポート「ダラムを訪問」

2023年12月06日 

職員を対象とした研修の一環として、ダラム・カウンティを訪問した。ダラム・カウンティはイングランド北東部に位置する典礼カウンティであり、産業革命以降、炭鉱地帯の中心地として発展した。12の大規模な町と数多くの小さな町や村により構成されており、人口は約53万人である。

〇ダラム・カウンティ

・ダラム・カウンティはイングランド北東部に位置する典礼カウンティであり、産業革命以降、炭鉱地帯の中心地として発展した。 

12の大規模な町と数多くの小さな町や村により構成されており、人口は約53万人 

4年間で7億7800万ポンドというダラム・カウンティにおいて過去最大規模の投資プログラムを実施予定。学校、中心部のインフラ、交通、道路、舗装への投資のほか、後述するNETParkなど経済資産への大規模な投資も行う。 

・ダラム・カウンティをはじめとするイングランド北東部にある7つの自治体がNorth East Mayoral Combined Authority (NEMCA)の形成に合意した。これにより、国に関与されることなく、今後30年で約14億ポンドの投資ファンドを直接管理することができるようになるなど、地方分権がより進行する。ダラム・カウンティはNEMCAのうち経済力及び人口の約25%を占めることから、NEMCAにて主導的な位置につくことが期待されている。 

・ダラム・カウンティでは、賃金が全国平均よりも約10%低く、約5万人が低スキル、低賃金の仕事に就いているという現状があり、より高スキル、高賃金の仕事の創出が課題となっている。そこで、2035年までにダラム・カウンティ全体で34億ポンドの投資を誘致し、3万の新たな仕事の創出を見込んでいる。 

・経済部門の投資では、2004年にサイエンスパーク「NETPark」をオープン。北東地域における宇宙ビジネスのハブとなっており、40社以上の企業が600人以上を雇用している。また、「ダラムイノベーションディストリクト」としてダラム駅を中心とした60ヘクタールのイノベーション地区を新設し、ダラム大学と連携し、ビジネススクール、商工会議所、博物館などを建設する予定。1億ポンド以上の投資を実施し、4000人の新規雇用が見込まれている。  

人道支援プログラムについて 

・ダラム・カウンティでは、保護者のいない児童や、アフガニスタン、ウクライナからの難民の受け入れを積極的に実施している。特にウクライナからの難民については、イングランド北東部で最大規模である600人以上を受け入れている。 

・受け入れた難民について、ビザのサポートや住居の提供を行っている。住居の提供の際には、難民同士でのコミュニケーションを支援するため、隣同士など近隣の住居を提供している。また、難民を自宅にて受け入れる市民に対し、謝礼を支出している。ただし、受け入れの決定の前に、女性・子どもの難民の安全のため、警察と連携し受け入れ先の身元確認を行っている。 

・ダラム・カウンティは、非白人の人口が約2%と白人が多い地域ではあるが、難民の受け入れに際し特に大きな問題は発生していない。  

観光政策について 

・ダラム・カウンティでは近年観光政策に力を入れており、2021年から2022年の1年間で、訪問者数は約1600万人から1800万人へ、経済効果は約8億ポンドから約10億ポンドへと大幅に上昇している。700近い宿泊施設、約400の飲食店など豊富な観光資源を有していることから、これらを活用し、観光客をさらに誘致する予定。 

・観光政策の策定の際は、政策、経済開発、公共交通部門等、ダラム・カウンティの各部門の担当者と連携している。また、Visit EnglandNorth East Tourism Allianceなど、観光関連団体ともパートナーシップを結んでいる。 

タウンホール内部

〇ダラム大学 

副学長より訪問歓迎の言葉が述べられ、ダラム大学の概要について説明を受けた後、会場近くにあるOriental Museumの視察を行った。また、ダラム大学構内にある帝京大学ダラムキャンパスにて、校長の小菅氏より説明を受けた後、学生との意見交換を行った。  

ダラム大学について 

・開校は1832年であり、イングランドで三番目に古い大学である。17つのカレッジから構成されており、そのうち最も古いカレッジであるダラム城はユネスコ世界遺産に登録されている。学生数は22,000人以上、そのうちの32%が海外からの学生である。 

・日本のトップ6大学とイギリスのラッセルグループ6大学、計12校で構成されるRENKEIという日英研究教育ネットワークに参加し、日本との連携強化に取り組んでいる。  

Oriental Museumについて> 

・中国、エジプト、韓国、インド、日本、その他アジアの工芸品などが 23,500 点以上収蔵されている。中でも日本の展示品の数は非常に多く、中でも武器や陶磁器についてはイングランド北東部では最大規模を誇る。また、映画やアニメキャラクターなど現代のカルチャーを紹介する展示や、広島・長崎をテーマにした展示など、日本に関する展示を随時開催している。 

・ダラム大学の学生だけでなく、海外からの視察団や、地元の小学生のグループなど、幅広い対象の訪問を受け入れている。  

<帝京大学ダラムキャンパスについて> 

・帝京大学建学の精神の一つ「国際化」のもとで、1988年に設立、1990年4月に開校した。ダラム大学より99年間のリースにて取得した土地に、帝京大学が教育棟、学生寮、職員宿舎などの施設を建設。帝京大学ダラムキャンパスのように、日本の大学が海外キャンパスを直接所有する事例は非常に少ない。 

・帝京大学だけでなく、帝京グループのほかの大学からも留学生を受け入れている。5週間の語学学校研修を含む5か月間の留学を行う通常コース、3か月半の留学を行う外国語学部全員留学コースのほか、2月~3月のダラム短期研修や、夏季・陶器のロンドン短期研修生のダラム受け入れなど幅広いプログラムを展開している。 

・ダラム留学は、少人数クラスでの実用英語・イギリス文化の授業、イギリス人家庭にホームステイしながらの語学学校研修、ダラム大学の学生との交流機会などを特徴としている。 

・帝京大学ダラムキャンパスの学生たちは、ダラム大学の学生とのスポーツを通じた交流や、ボランティア活動への参加など様々な活動を行い、充実した留学生活を送っている様子がうかがえた。 

ダラム大学校舎外観 Oriental Museum内部

〇ビショップ・オークランド 

<ビショップ・オークランドにおける再開発計画と投資の概要について>  

・ビショップ・オークランドはダラム・カウンティの中で2番目に大きい都市である。  

・人口は2万5千人程度であるが、周辺の多くの農村がビショップ・オークランドにサービスやショッピングを求めて訪れるので、交流人口は15万人の規模である。  

・ビショップ・オークランドは石炭や鉄、鉄道などの工業が盛んな地域であり、かつてはプリンス・ビショップが強大な権力を握っていた歴史的にも重要な場所であった。  

・一方で、現在は生産年齢人口や雇用の減少、地域経済の衰退といった課題に苦しんでいる。  

・様々な分野で新たな雇用を生み出す必要があり、その一つとして観光やビジター・エコノミーの雇用創出を目指している。  

・市は、この町の課題として、「経済の弱さ」(雇用の少なさ、夜間のエンターテインメントの少なさ等)、「若者の抱える課題」(教育サービス、キャリアサポートの不足)、「低迷する観光経済」、「インフラの不足」(狭くて古い道路、小さい鉄道駅やバス停)、「貧弱なデジタル接続」(携帯電話の電波取得にも苦労するほどの貧弱さ)の5つに整理した。  

・これらの課題に対処するために、「観光目的地としてのビショップ・オークランドの発展」、「21世紀のマーケット・タウンとしての地位獲得」、「ダラムへの玄関口としての街の可能性を開く」の3つの柱をビジョンに掲げ、様々な主体とパートナーシップを組みながら、インフラ整備や中心市街地の再開発など各種プロジェクトを進めている。  

・2017年に地元事業者や投資家ら関係者と協議の上再開発計画のマスタープランを策定、Stronger Town Fund(新たな雇用の創出や地域住民の職業訓練支援等の促進に向けた中央政府のファンド)やFuture High Street Fund(繁華街や中心市街地の活性化に向けた中央政府のファンド)、Heritage Action Zone(地域経済活性化に向けた歴史的建造物等の再利用促進に向けたヒストリック・イングランドのファンド。ヒストリック・イングランドは、イングランドの歴史的地区や建造物等の保護を行う公的団体。)などをはじめとする様々なファンドに採択され、合計で3億4500万ポンド(約630億円)という大規模な資金の下、インフラ整備や中心市街地の再開発など76件のプロジェクトが進行している。  

・プロジェクトが完了した暁には、ダラム全体の観光経済の20%以上の向上、ビショップ・オークランドにおける2億ポンド(約36億円)を超える投資の呼び込み、3,000以上の新規雇用の創出、毎年500名以上の若者への職業訓練の実施・新規雇用への就職などの効果が得られると期待されているという。  

・プロジェクトの内容は多岐に渡り、中心市街地の空き家を活用した新たな住宅やホテルをはじめ、新たな雇用機会の提供に向けた若者向けの職業訓練施設の整備、フードコートなどのレジャー施設の設置が進められているほか、新たなバスステーションや駐車場の整備、メインストリートにおける照明の設置、アクセス改善に向けた道路の拡大・建設などのインフラ開発、その他にも大規模野外イベントの開催やスタートアップ企業向けのワークスペースの整備などが進められている。    

〇オークランド城、フェイス・ミュージアム、スパニッシュ・ギャラリー

・オークランド・プロジェクト(The Auckland Project。通称TAP。)によって運営されているオークランド城やフェイス・ミュージアム(Faith Museum)、スパニッシュ・ギャラリー(Spanish Gallarey)を見学した。TAPは、ビショップ・オークランドの歴史遺産の保存と観光への活用に向けて活動している慈善団体である。   

<オークランド城>  

・オークランド城は、かつて英国君主に次ぐ権力を持っていたダラム王子司教が本拠地としていた城である。城内は当時の内装が再現されている。   

<フェイス・ミュージアム>  

・フェイス・ミュージアムは、信仰や宗教が歴史を通じてどのようにして英国のコミュニティや生活を形成してきたかということを伝える博物館である。内部には、あらゆる信仰、宗教に関する展示がなされていた。 

<スパニッシュ・ギャラリー>  

・スパニッシュ・ギャラリーは、スペインの芸術、歴史、文化を伝える英国初のギャラリーである。エル・グレコなど著名な画家の作品をはじめ、スペインの黄金期を支えた様々な芸術作品が展示されている。   

〇所感

・訪問を通じて、主にダラム・カウンティの概要、投資の誘致、観光の発展のための取り組みについてご説明いただき、地域の振興のため様々な主体と協力して各種事業を進めていることが分かった。中でもビショップ・オークランドでは、地域経済の衰退などの課題に苦しんでいる中、様々な分野で新たな雇用を生み出すため、観光やビジター・エコノミーの雇用創出を目指し、インフラ整備や市街地再開発などのプロジェクトを実施しており、その規模の大きさが非常に印象に残った。 

・ダラム大学では、更なる国際化のため日本をはじめとした世界各国からの学生を受け入れているほか、大学職員についても様々名国から採用しているとのことだった。また、Oriental Museumでの情報発信や、帝京大学ダラムキャンパス学生とダラム大学生・地域住民との交流など、地域における草の根レベルでの国際化・異文化理解推進の動きが感じられた。 

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