調査・研究

スピーカーシリーズ

地球温暖化問題について

2009年04月22日 

●テーマ:「地球温暖化問題について」
●日時: 2009年4月22日(水)14:00~15:30
●講師: Chatham Houseフェロー(環境省派遣)鷺坂長美 様

ご講演要旨

【地球温暖化の影響】
・ 1979年から2000年までの比較では、北極圏の氷の量はおよそ20%減少している。
・ グリーンランド、南極でも氷の融解が進んでおり、海面上昇に影響を与えている。南極の氷の融解が進むと海面が数メートル上昇するとの説もある。
・ アジア地域では海抜の低い沿岸部に人口や資産が集中しており、海面上昇の影響を受ける可能性が高い。特にツバルは海抜が低く、国民はいずれ自分の国がなくなるという認識を持っているくらいである。
・ 地球温暖化は、巨大ハリケーンの発生、マラリアなど感染症に罹るおそれのある地域の拡大、干ばつによる農作物への被害なども引き起こしている。
・ 地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の濃度は、産業革命以後、急上昇を続けている。このため将来の気温についても最大で6.4℃上昇するとの予測がある。
・ 二酸化炭素などの温室効果ガス濃度を安定させるためには、排出量を、今後自然吸収量と同程度まで減らすことが必要である。
・ 地球温暖化の科学的な分析については、気候変動に関する最新の科学的知見の評価を任務とするIPCCという国連の組織が存在する。政策に中立であり、特定の政策の提案は行わないという立場を取っている。
・ 気温の上昇が2~3℃を超えると被害が甚大になると言われているが、例えばEUは気温上昇2℃までで安定化を図る目標を設定している。世界全体でも、カテゴリーⅠ(産業革命からの気温上昇2.0~2.4℃)の範囲に抑えることを目指すという認識ができつつある。
・ 将来の二酸化炭素濃度をより低いレベルで安定させるためには、排出量のピーク時期を早め、2050年までに大幅な排出削減が必要である。

【国際交渉(1)気候変動枠組条約と京都議定書】
・ 大気中の温室効果ガス濃度の安定化を目的とする「気候変動枠組条約」は1992年に採択され、1994年に発効した。
・ 「気候変動枠組条約」の目的の達成に向けて、2005年に発効した「京都議定書」では国別排出総量に法的拘束力のある削減目標を課した。ただしアメリカは批准せず。
・ 京都議定書では1990年のレベルを基準とし、2008年から2012年で日本は6%の削減、EUは全体で8%の削減をするという目標が課された。一方で途上国については数値目標などの義務は導入されなかった。
・ 京都議定書では、国際的に協調して目標を達成するための仕組みも導入された。例えばCDM(クリーン開発メカニズム)は、先進国が途上国で排出量削減プロジェクトを実施し、削減分を当該先進国の達成数値として計上できるという仕組みである。

【国際交渉(2)次期枠組み交渉】
・ 世界全体の二酸化炭素排出量のうち、京都議定書による削減義務を負っている国からの排出量は30%に過ぎない。最大の排出国アメリカ(21.4%)は議定書を批准しておらず、排出量第2位の中国(18.8%)は削減義務を負っていないためである。
・ 京都議定書の約束期間(2008年から2012年)以後の次期枠組み交渉の課題として、米国や中国、インドの参加、特に途上国が参加するインセンティブが挙げられる。排出削減だけでなく、気候変動への適応や途上国への資金供与も重要な課題である。
・ 次期枠組みに関する日本からの提案としては、安部総理のときに「美しい星50」という提言で、2050年までに二酸化炭素の排出量を半減させる目標を提示した。
・ 日本の提案には、途上国に対しては経済の発展段階により分類し、主要途上国に対しては主要セクター及び経済全体の効率目標を拘束力のある目標として設定、その他の国については数値目標による拘束は行わない、という途上国が受け入れやすいように柔軟性を持たせた提案も含まれている。
・ 2008年のG8北海道洞爺湖サミットでの合意事項は、長期目標として、2050年までに世界全体の排出量を少なくとも50%削減するとの目標を、気候変動枠組条約の全締約国と共有し、同条件の下での交渉において検討し採択することを求める、というものであった。また、中期目標として、G8各国が自らの指導的役割を認識し、排出量の絶対的削減を達成するため、野心的な中期の国別総量目標を実施することが合意された。
・ 次期枠組み交渉における日本の立ち位置としては、アメリカとEUをつなぐ役割、先進国とアジア諸国をつなぐ役割が期待される。日本は2008年のG8議長国を務め、また公害を克服し経済成長を遂げた経験と高い環境技術力は世界にアピールできる。
・ 温室効果ガスの削減については、先進国側は、主要途上国は何らかの義務を負うべきと主張している。途上国側はまずは先進国が野心的な中長期の目標を約束すべきと主張している。また主要途上国は、途上国のグループ分けに反対している。
・ COP14・COP/MOP4での結論として、途上国のグループ分けは提案の一つとして議長とりまとめペーパーに盛り込まれた。その他に先進国の削減目標の設定、割り当てについて今後検討を要する事項の確認がなされた。また途上国への技術移転促進のために技術ニーズ評価を迅速に実施することが確認され、また新規の資金メカニズムに関する各種提案が議長とりまとめペーパーに盛り込まれた。
・ 次期枠組みのキーワードは計測可能、報告可能、検証可能の三点である。
・ 京都メカニズムにおけるCDM(クリーン開発メカニズム)の課題としては、プロジェクトがアジア太平洋(特に中国)と中南米に偏っているのが現状である。
・ 先進国は緩和(排出削減、吸収源の強化)に関心が強く、途上国は適応(水防対策など)に関心が強いという見解の違いが生じている。

【国際交渉(3)国際的な動向】
・ オバマ新大統領の環境問題に対する姿勢は積極的だが、数値目標は保守的と指摘されている。
・ EUでは2005年から排出量取引制度が導入されており、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドでも導入を決定又は検討中となっている。
・ 日本、アメリカ、EUなどが中期、長期の目標数値を掲げており、日本の中期目標については環境省がパブリックコメントを募った上で2009年中に発表される。

【国内対策】
・ 2007年度の日本の排出量は基準年比8.7%(速報値)上回っており、京都議定書の6%削減約束の達成には、14.3%の排出削減が必要である。
・ 二酸化炭素排出量に関しては、産業部門、運輸部門、業務その他(商業・サービス・事業所など)の順に排出量が多い。(2006年度)
・ 産業部門では自主行動計画の推進・強化、エネルギー管理の徹底などによって排出量削減が図られている。
・ 運輸部門では自動車・道路交通対策、物流の効率化などによって、また業務その他部門では建築物・設備・機器等の省CO2化(トップランナー基準による機器の効率向上など)、エネルギー管理の徹底などによって排出量削減が図られている。
・ 家庭部門においては、住宅・設備・機器等の省CO2化、国民運動の展開(「チーム・マイナス6%」、「私のチャレンジ宣言」など)によって削減が図られている。
・ 京都議定書の目標達成のために、再生可能エネルギーの利用や省エネ機器の利用による排出量の削減と並行して、森林の再生など温室効果ガス吸収源対策も実施されている。
・ 現在、排出量取引国内統合市場が検討されている。経団連の自主行動計画への反映などを通じて京都議定書目標達成に貢献することが期待されている。
・ 英国の国内対策としては、2008年に気候変動法が可決され削減目標などが定められた。排出権取引制度に関してはEUで2005年から導入されている。
・ 英国では電気、ガス、石炭を対象に気候変動税が課されているが、政府と協定を結んだ事業者が目標を達成した場合は税額の80%が免除される。
・ 英国ではエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を2020年に15%とする目標を掲げている。さらに2008年からは国内外の技術開発への資金援助をしており、また2008年からエネルギー供給事業者に義務を課すなど家庭部門でも排出量の削減に努めている。

【低炭素社会に向けて】
・ 福田ビジョン(低炭素社会・日本をめざして)では、低炭素社会への転換、2050年までに世界全体で排出量を半減する目標、10~20年で世界全体の排出量のピークアウトという目標、が掲げられた。
・ このためには、①革新技術の開発と先進技術の普及(途上国支援多国間基金など)、②国全体を低炭素化へ動かしていく仕組み(排出量取引など)、③地方の活躍(エネルギー、食料の地産地消など)、④国民主役の低炭素化(サマータイム導入など)の取り組みが必要である。
・ 低炭素社会のイメージとしては、太陽光等のエネルギーの導入が進展した社会、水素の利用が大幅に進展した社会、二酸化炭素を排出しないエネルギー源の利用が進んだ社会、省エネの効率が徹底化された社会、というものである。
・ 低炭素社会の実現のためには、基本理念、イメージ、実現のための戦略を策定し、これらを世界に発信し、国際的に連携することが不可欠である。
・ 参考資料として、脱温暖化2050研究プロジェクトでは日本を対象に、2050年に想定されるサービス需要を満足しながら主要な温室効果ガスであるCO2を70%削減する低炭素社会(活力社会、ゆとり社会の2つのシナリオ)の姿を提示している。
(以上)

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