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調査・研究

スピーカーシリーズ

ロンドンオリンピック・パラリンピックを終えて

2012年11月22日 

2012年10月9日(火)16:00~17:30
講師:独立行政法人日本スポーツ振興センター・ロンドン事務所
所長 田村寿浩氏
於:クレアロンドン事務所 会議室

 ロンドンオリンピック・パラリンピックが終了しました。今回、開催国英国の選手育成の成功を見せつけられた感もありますが、日本も、オリンピックの金メダルは目標を下回ったとはいえ、過去最高数のメダルを獲得する結果となりました。クレアロンドン事務所では、「マルチサポート・ハウス」の運営をはじめ、選手・競技団体への各種支援に携わってきた(独)日本スポーツ振興センター・ロンドン事務所ならではの貴重な経験と、そこから見えてくる今後の課題を共有するため、講師に同事務所所長の田村寿浩氏をお迎えして、「ロンドンオリンピック・パラリンピックを終えて」と題し、先日終了した2012年ロンドンオリンピック・パラリンピックの振り返りと2020年東京オリンピック・パラリンピック大会招致に向けた課題等について、お話をいただきました。
 田村様によるご講演のあと、ご参加いただいた在英国日本国大使館やその他日系機関の参加者のみなさまと意見交換を行いました。その概要について報告します。

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【(独)日本スポーツ振興センターとは】
日本スポーツ振興センターには、前身となる団体が4つあった。日本学校給食会、日本学校安全会、日本学校健康会、そして国立競技場である。その後2度の統合を経て、日本におけるスポーツ全般の仕事をする組織として平成15年に現在のセンターとなった。平成13年にはトップアスリートのために「国立スポーツ科学センター」が設置されている。
・(独)日本スポーツ振興センター・ロンドン事務所は2009年9月に、ロンドンオリンピックに向けた様々なサポート行う拠点として設置された。これまで行ってきた活動は、以下の3つに分けられる。

①ロンドンオリンピックに向けた活動
 これが最も大きな活動である。当初は国立スポーツ科学センターの出先機関との位置づけだったこともあり、特にロンドンオリンピックに向けた情報戦略(=Intelligence)事業を行った。次に、文科省の事業として、チーム「ニッポン」マルチサポート事業というものがあり、筑波大学と国立スポーツ科学センターが受託者として事業を実施したが、当事務所はロンドンにある最前線としてマルチサポート・ハウスの開設に向けた様々な活動を行った。
 それらの活動に伴いいわば自然に発生するものとして、JOCとの連携協力や 関係者のロンドン等での活動に対する支援も行った。

②スポーツ政策に資する情報収集
 日本では平成23年にスポーツ基本法が成立したが、それに向けた情報収集として、 英国をはじめとした欧州のスポーツ政策に関する情報収集を行って文科省に提供した。これについては当事務所にいる研究員が対応した。

③我が国スポーツ界の国際的地位の向上のための活動
 まだ国際的な大会参加や活動に慣れていない競技団体のために、他国の同競技団体との関係を構築したり、相互の研鑽のために交流の機会を設けたりといった支援を行った。この活動により、我が国のスポーツ団体が国際的にも認知されるようにサポートする役割を担った。現在の事務所は日本の政府系機関や英国の主要なスポーツ団体の事務所にも近く、また、ヒースロー空港やオリンピックスタジアムのあるストラトフォードにも地下鉄1本で行けるのでそうした活動にも便利な場所である。

【ロンドンオリンピック・パラリンピックの日本選手の成績の結果について】
・今大会での日本人選手の成績だが、メダルの獲得数としては過去最高のメダルを獲得することができた。ただ、金メダルが7つということで、もう少し取れたらもっと盛り上がっただろう。レスリングが7つのうち4つを占め、活躍したことが分かる。銀・銅メダルが増えたので全体の底上げが図れたということが言えるし、初めてのメダル、久しぶりのメダルという競技もあったので、着実に各競技ごとでのレベルアップもできたと思う。そうはいっても開催国のイギリスはじめ他国を見ると、まだまだ世界の壁は厚い。

・パラリンピックについて振り返ると、世界のレベルがどんどん上がってきていて、今回日本チームはトータルで16個という結果だった。過去の大会での獲得数と比べても、今回は厳しい試合だった。アテネ大会での52個という数字は、今回と比べるとすごい数字だ。
・ゴールボールが金メダルを獲得したことが大きく取り上げられた。パラリンピックの種目は馴染みの薄いものもあるが、金メダルを取ったことにより、認知度が上がった。
・当センターの設立当初は、パラリンピックのサポートということは第一義的には入っていなかったが、スポーツ基本法の成立を受け、今後はパラリンピックの支援も行っていくことになるだろう。今大会でも、パラリンピックについても、例えばクレア・ロンドン事務所からの情報提供も受け、競技団体に英国での練習地の情報提供を行うなど、できる限りのサポートを行った。

【メダル増加につながった「マルチサポート・ハウス」事業】
 ・チーム「ニッポン」マルチサポート事業が今動いているが、これは、マルチサポートを通じたトップアスリートの育成を目的として、特にメダル獲得が有力視されている「ターゲット競技」を中心に、集中的にサポートを行うという事業である。マルチサポートとして、①アスリート支援、これは大会が近くなる前から、日本で行っている支援である。②マルチサポート・ハウス支援、これは大会の直前から大会が終わるまで、現地で行うサポートである。それから③調査研究・諸外国調査、これは間接的にメダル獲得につながる調査研究や実態調査を行うものである。
・また、筑波大学がマルチサポート事業の一環として文科省の委託を受けて研究開発プロジェクトを行っている。これらの事業を通じて、オリンピック競技大会で過去最多を超えるメダル数の獲得を目指すとして活動してきた。
・マルチサポート・ハウスはオリンピックでは今回が初めてである。2010年の広州アジア大会で初めて試験的に導入された。その際、競技団体から高い評価を受け、今後の国際大会でも是非設置してほしいとの要望があり、今大会でオリンピックで初めての設置となった。マルチサポート・ハウスのコンセプトは情報戦略・医・科学サポートの『ワンストップショップ』である。ここにくれば様々なサポートが全て受けられる。大きな柱が4つあり、一番イメージしやすいと思うのが「コンディショニング・リカバリー」、これは、選手達が競技当日に体調を最高のコンディションに持って行くためのサポートを行うものである。すぐに体調を回復して次の出番に備える、そうしたことのために栄養補給、メディカルスペース、疲労回復を促進するリカバリープール、トレーニングスペース、心理的なサポートを受けられる個室、の機能を用意した。それに付随する形で、選手達が映像を見て競技を振り返る映像フィードバックやその他の情報を入手できる情報戦略、現地と日本との連絡が取れるスペースを設けた。物理的には他にミーティングスペースや機器の保管スペース等を設けた。レスリングと柔道については、日程が重なっていないので、レスリングの時はマット、柔道の時は畳を敷いて事前調整の場として利用してもらった。
・選手村から徒歩約10分という好立地にある劇場「ストラトフォードサーカス」を選定し、全館借り上げることとし、約1年前に地元ニューハム区と契約を交わした。
・2012年7月16日(月)から8月12日(日)まで約1ヶ月間開設した。
・延べ利用者は4,217人、1競技団体が平均12.5日間利用した。
・利用を高めた要因としては、アクセスの良さ、2010年広州アジア大会でのトライアルによって競技団体の認知を得たこと、競技団体の要望を反映させたサービスが提供できたこと、の3つがあげられる。
・特に選手達から一番利用されたのは、食事だった。選手村での食事は一応和食はあったものの、余りおいしくなかったらしい。マルチサポート・ハウスでは、東京の国立スポーツ科学センターで提供している食材をそのままこちらに持ち込み、選手が食べ慣れた日本食を提供できたのが良かった。

【今後の課題(1) 2020年東京オリンピック・パラリンピック大会招致への協力】
・スポーツ振興センターとしても東京2020オリンピック・パラリンピック招致については全力で協力していきたいと考えている。河野一郎理事長は、2016年招致活動の際、東京都オリンピック・パラリンピック招致委員会事務総長を務めており、招致の仕事がいかに大変か、いかに重要か、いかに国民の皆さまの理解を得ながらやっていかなければならないかは非常に良く理解されている。そのような理事長の意向も受け、我々もこれから2020年招致に向け頑張っていきたいと考えている。
・開催都市決定までのスケジュールをまとめてみた。今年5月に立候補都市が決定し、ロンドンオリンピックではIOCのルールの範囲での招致活動を行った。年明けの2013年1月7日にはIOC国際オリンピック委員会への立候補ファイル提出期限が来る。来年3月にはIOC評価委員会による各立候補都市視察があり、東京も3月上旬には訪問を受けると聞いている。7月にはIOC委員へ開催計画に関するプレゼンテーションが行われる。そして2013年9月7日の第125回IOC総会(アルゼンチン・ブエノスアイレス)においてIOC委員の投票により、開催都市が決定される。
・一次選考では5都市のうち東京、イスタンブール、マドリードの3都市が残ったが、一次選考での評価については、様々な見方がある。その中で東京の難点ということでよく指摘されるのが、世論の支持率が47%と低いことである。これについては様々な見方があるが、日本人のキャラクターとして「どちらでもない」を選ぶ人がどうしても多くなってしまうことも影響している。つまり、別に日本の皆さんが全く関心がないということではなくて、賛成とも反対とも言い切れないという気持ちがどちらでもないを選ぶことに繋がってしまうのだと思う。従って、イスタンブール、マドリードに比べればこの時点では確かに低いが、今後のキャンペーンのやり方によってはいくらでも上積みが図っていけると思う。この数字をそのまま鵜呑みにはできないと思う。また人口で見ると、300万人しかいないマドリードの80%が賛成していると言っても、1300万人いる東京の50%が賛成している方が、絶対数としては大きいことになる。そういうことも勘案すると、世論調査の47%という数字はあくまでも相対的なものではないかと思う。
・今後の招致活動を盛り上げていくポイントとして以下の6つをあげたい。これは、私がこれまで様々な方々とお話しする中で得た意見等も踏まえてまとめた。

① 明確な「工程表」を作成する・・・今後時間はあるようであまりない。今まで様々なプレーヤーが様々な活動をしてきたことは間違いないが、なかなか横の連携が取れていないのではないかという印象がある。期限を区切って目標を決め、関係者が取り組む様々な活動が相乗効果を出していくことが必要である。それによって効果的な活動の成果が得られる。招致委員会の役割かも知れないが、活動全体をコーディネートする人が必要。

② 招致活動の「顔」を決める・・・招致活動と言えばこの人だという顔を決めた方が良いのではないか。これは私だけの意見ではないと思うが、東京の招致というとあの人、という人が必要である。日本国大使館の方もおっしゃっていたが、2018年冬季オリンピックを勝ち取った韓国のピョンチャンは、スケートのキム・ヨナ選手、イ・ミョンバク大統領、サムスングループのイ・ゴンヒ会長の3人が招致の顔として、どこに行っても韓国をよろしくお願いします、と活動し、なかなかのインパクトだったと聞いている。日本といえばこの人、という形で覚えてもらえると良い。

③常に話題になるようにする・・・アンケートの無関心層に繋がる話だが、日本で盛り上がらない理由の一つに無関心層が一定割合で存在することがあげられる。そこで、例えばトップアスリートには常にオリンピック・パラリンピックを招致する意義を語ってもらう。ロンドンオリンピック後の銀座のパレードでは50万人の人手だった。日本人も盛り上がれるところでは盛り上がりたいともちろん思っているので、国民のスポーツへの関心が高まるようなタイミングをとらえて招致についてトップアスリートに語ってもらう等の取り組みが必要である。マスコミも上手く活用するべき。また賛成派だけではなく、時には消極派の意見も紹介しながら、常に、広く招致が話題になるようにする必要がある。

④南米地域とのコネクションを強化する・・・スケジュールにもあるとおり2020年の開催都市は来年アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれるIOC総会で決定される。このほか、2014年にはブラジルでワールドカップサッカーが開催されるし、2016年オリンピック・パラリンピックはリオデジャネイロ大会であり、今後南米で国際的なスポーツに関するビッグイベントが続く。この地域がスポーツ関係者に注目されることになる。そこで南米地域とのコネクションを強化し、「次は日本に」と呼びかけられる関係作りをする必要がある。

⑤日本スポーツ振興センターとしてできること・・・今後の大会でのサポートがどうあるべきか考えていくために、ロンドン大会でのアスリート達の戦いぶりの分析を行っていく。また、招致に関する事柄で言えば、国際スポーツ界とのネットワーキングがものをいうのは間違いない。我々にもこれまでに築いてきたいろいろなネットワークがあるので、そうしたネットワークを可能な限り駆使して日本招致の支援を国際スポーツ界に引き続き強くアピールしていく。選手・競技団体などとの良好な連携関係、これは言うまでもないが、それを今後も維持していく。

⑥ ロンドンにいる我々にできること・・・ロンドンに住む1人の住民として、私も大会が近づくにつれての盛り上がりには感動した。大会中は一日本人として競技会場に足を運んだが、やはり感動した。それはその場にいなければわからないと感じた。大会中は仕事で大変な時もあったが、そのような中、実際に競技会場に行って日本人選手が活躍する姿を見ることができたのは本当に何事にも代えがたい良い経験であった。こうした思いを、ロンドンにいる日本人が是非もっと発信していくことができたらと思う。そこで、「生の声」での情報提供・情報発信を我々にできることとしてあげたい。オリンピックのような国際大会が自分の住んでいる場所で開催され、そこで自分の国を代表する選手を間近で応援することができる、それがいかに素晴らしいことであるかということが、今回我々がロンドンで体験したことだ。それを我々が日本にいる人々に伝えていくことが重要ではないか。それからもう一つは、大会を運営する人たちの頑張りの姿も見逃すことはできない。やはりボランティアが献身的に対応してくれたことも伝えて行きたい。

【今後の課題(2)新国立競技場設置構想推進】
・日本スポーツ振興センターでは、冒頭申し上げたとおり国立競技場の管理運営を所管しており、老朽化した国立霞ヶ丘競技場を改築し、より立派な国際大会が開催できる競技場とするため、「新国立競技場設置構想」を推進している。
・スケジュールとしては、現在は様々な情報収集、調査研究、デザインの公募を行っているところである。公募は既に締め切られ、46件の応募があった。今後審査が行われて採用になったものをベースとして今後のプランが形作られていく予定だ。最終的には、2019年ラグビーワールドカップの開催に間に合うように完成させるスケジュールである。
・国立競技場はとても便利なところにある。JRの千駄ヶ谷駅、信濃町駅そして地下鉄の外苑前駅が近く、神宮球場、秩父宮ラグビー場も隣接している。
・このように大規模競技施設に隣接し、改築が与える影響も大きいことから、スポーツ振興センターでは本部に新国立競技場構想本部を設けて対応している。
・一方事務方だけでは当然固まらないので、様々な有識者の方のご意見を伺いながら進めていく。組織として「国立競技場将来構想有識者会議」を立ち上げ、その下に3つの部会を置いている。
・施設建築グループ部会、ここでは、どういう施設を建築していくか、を検討する。施設利活用(スポーツ)グループ部会、これは、新しい国立競技場がスポーツの関係ではどのような使われ方をするのが望ましいか、という部会。施設利活用(文化)グループ部会、イギリスにある様々な大きく著名なスタジアムのいくつかもそうだが、大きなスタジアムは当然ながら、スポーツの試合のためだけではなく、大きなコンサートなど、文化的な行事で使われることも多い。そういうことも新しい国立競技場では構想しており、これらを想定した場合に、どういう新しい国立競技場を作るのがいいのか、ということを検討するというのがこちらの部会である。
・日本を代表するそうそうたる方々に有識者のメンバーに加わっていただいている。元総理の森喜朗日本ラグビーフットボール協会会会長、建築家の安藤忠雄氏、サッカー協会の小倉淳二名誉会長、文化活動の部会では、作曲家で著作権協会理事長の徳倉俊一氏、竹田恒和JOC会長、石原慎太郎東京都知事など14名である。
・現在国際デザインコンクールの審査結果は11月中旬には発表され、そこで決定した大きなデザインの構想に従って今後の作業が進められる。
・同構想のコンセプトは、「日本人みんなが誇りに思い、応援したくなるような、世界中の人が一度は行ってみたいと願うような、次世代スタジアムをつくろう。」だ。
・具体的には、開閉式の屋根がある、収容人数8万以上、世界最高のホスピタリティ、バリアフリーアクセスといった要素を備えたスタジアムを作れれば、ということで構想の検討が進められている。

【その他】
 意見交換では、来年9月の開催都市決定に向けて、省庁間の壁を越えた、スポーツというくくりでの協力や、ロンドンオリンピック・パラリンピックを経験した在ロンドンの大使館・政府系金融機関の協力のあり方等について議論が交わされました。

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