調査・研究

スウェーデンの地方自治情報メモ

スウェーデン

スウェーデンの公的個人認証サービスを再検討せよ

2011年03月01日 

電子個人認証の調査グループは、インターネット上で我々が身分証明するための公的個人認証サービスをどのように発展させて行くか、提案書を提出した。しかしこの提案は不十分で、議論から除外されるべきものであり、再調査が妥当である、とSKLのホーカン・スールマン事務総長はSvD(スウェーデンの日刊紙)の論考欄で発表している。以下はその論考の邦訳である。
インターネット上における身分証明の必要性は増加しているが、今日の手段は継続的に維持できるものではない。したがって今回のスウェーデンの電子個人認証に関する調査によって、全ての公的機関に有効で、また新しい電子サービスの開発にもより良い環境をもたらし、さらにコストも低減するような解決方法が提案されるものと、我々は信頼を持って期待していた。提案書が提出された今では、それはつまらない読み物に過ぎない。同提案書は一項ごとに疑問を感じるものであり、初めからやり直す以外に方法はないと考えざるを得ないほどのものである。
 ここでいう公的個人認証サービスとは、出生証明書に比べて、プラスチックカードなのかそれとも小さな箱なのかといったことではなく、我々一人一人の個別の電子セキュリティ番号のことである。レポートにおいて、電子個人認証(証明書)の開発は、誰もが考えるような税務局や警察ではなく、今後も継続的に民間の事業者により運営されるべきだと提案されている。
 証明書の発行を民間市場の事業者が請け負うべきでないということは、我々にとって基本原則である。民間事業者は、市民の身元といったデリケートな機密情報を取り扱うべきではない。したがって、銀行やその他の民間事業者がプラスチックカードや箱その他のものに置き換え、電子個人認証として利用できるよう、政府が証明書を発行するべきである。民間事業者の場合、証明書の発行を中止したり、また破産したり売却されたりする可能性もあるが、政府による証明であれば万全であり、継続的に維持することができる。これは我々が民間市場による解決策について常に否定しているということではない。むしろ逆であり、民間市場に開放された医療選択の自由や新しい公共交通機関法について我々は積極的である。しかし本件に関しては民間市場による解決策は適切ではない。
同提案での解決策は、例えば医療といった分野において課されている、個人情報に関する安全基準も満たしていない。調査グループの提案によれば、異なる事業ごとに並行したシステムを構築することが予想されるのだが、スウェーデンの公的個人認証サービスがそうなることを意味する。銀行で電子認証を使い、医師と連絡するのに別の電子認証、またネット上で税務申告に署名するのにさらに別の電子認証を用いることが必要になる。人々にとって大変不便なだけではなく、このことはリソースの巨大な浪費も意味するのである。
 この提案における別の問題点は、システムの財源となるビジネスモデルがすべて、公的個人認証サービスの需要像についての時代遅れな見方に基づいていることである。需要は多様であり、法的にこのモデルがLOV(選択の自由システム法)による選択オプションを許容することが出来るかは疑問である。このビジネスモデルは技術的にも複雑であり、公的個人認証システムを必要以上に割高にすることは明らかである。
 地方自治体や州議会は、市民との接点のうちの80%を占める。すなわち、自治体と州議会に適した解決策を見つけることを最優先にすべきである。すでに自治体や州議会は、公的個人認証システムに多額の投資を行っており、我々はそれが将来の解決策の基礎になると常に思ってきた。しかし今や今回の調査ではこれらの投資は考慮されず、無駄になることが明らかになった。我々が非常に批判的にならざるを得ない、社会的リソースの大きな損失である。
 最後に、今回の調査で提案された解決策は、技術的に非常に複雑なもので、地方自治体や州議会の諸活動に理解のないITコンサルトにより立案されたものである。同提案モデルは技術的、法的な両観点から複雑・不可解なものであり、それを理解し検討するためには、情報技術に関するトレーニングを要する。議論が行われないのは、それが理由なのだろうか?
 多くの人々が今回の提案に批判的である。事実、良好な解決策であると捉える人が仮にいるとしても、それはごく少数である。国家の認証による公的個人認証サービスシステムを、現在そして将来の諸活動の必要性に基づいて開発するよう、政府は再調査を早急に始めるべきだ。
【出典】スウェーデン地方自治体協議会(Swedish Association of Local Authorities and Regions: SALAR)のニューズレター(2011年3月1日発行)
http://www.skl.se/press/debattartiklar/utred-svensk-e-legitimation-pa-nytt

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