2017年度 JLGCセミナー 「Northern Powerhouse on Track」 

国際交流

2017年度実施事業 シェフィールドpdf

2017年度JLGCセミナー 「Northern Powerhouse on Track」

TOPJLGC2017

日時: 2018年3月9日(金)13:30~16:00(レセプション実施16:00~17:30)
場所: University of Sheffield
参加者: 計71名

【概 要】自治体国際化協会ロンドン事務所では、日英両国の地方行政に関する取組の紹介を通じて相互理解を深めるため、JLGCセミナーを毎年開催している。今年度は新高速鉄道HS2の建設計画や北イングランドの経済活性化政策であるノーザンパワーハウスを契機として、沿線地域において経済活性化への期待が高まっていることを踏まえ、鉄道による地域活性化をテーマとしたセミナーを、HS2の建設予定都市の1つであるシェフィールドにおいてSheffield Universityと共同開催した。

① Chair:Peter Matanle (Sheffield University) 氏による開会

② James Wilson教授 (Sheffield University) 開会挨拶

・School of East Asian Studiesでは近年、他の学部や機関と協働し、従来とは異なる手段や知識を用いて社会問題や政治的問題に取り組むことに重きを置いている。他機関と協働研究を行うことでより広い範囲での実際的な効果をもたらすことが期待される。

③黒野所長(自治体国際化協会 ロンドン事務所)

・(一財)自治体国際化協会の概要紹介

 

【第1部】

堀内 丈太郎公使(在英国日本国大使館)講演
演題:「High Speed Rail: Japanese Perspective」

MinisterHoriuchiJLGC2017

・新高速鉄道がイングランド北部に開通すれば、ビジネスや観光、また再開発の機会が向上する。その参考として石川県金沢市の例を紹介したい。

・石川県は新幹線開通前に高速鉄道計画を策定し、東京からの事業者誘致や金沢市内の再開発、駅前へのアーチオブジェの設置などを計画的に行った。こうした事前準備が奏功し、2015年の開通後には、前年比35%増の394万人が石川県を訪れた。

・高速鉄道導入にあたり十分な計画のもと最大限の効果をがもたらされることを期待する。企業誘致や観光にも力を入れ、地域の魅力を発信することは効果的である。機会と戦略そして行動が効果を生むと思う。

 

【第1部パネルディスカッション発言要旨】

Panel1JLGC2017

Arianna Giovannini氏

・De Montfort UniversityでSenior Lectureを務めている。特に英国の北イングランドの地方分権について研究しており、ここ数年は、地方分権の政治的プロセスや ノーザンパワーハウスに注目している。最近では、Sheffield Political Economy ResearchのCraig Berry 氏と共著を発表した。

・英国のインフラ投資では大都市同士の連結が優先されている。しかし、ノーザンパワーハウス圏内には置き去りにされている地域もある。そして東部と西部の連結ができていない。日本におけるインフラ開発や交通政策では都市の連結ができているのか。

Tobyn Hughes氏

・自身もイングランド北部出身であり、交通関係の仕事に携わっている。地方自治体の職員でもある。Nexusという組織のManaging Directorを務めている。Nexusはニューキャッスルやサンダーランドのあるタインアンドウェアと呼ばれる地域に地下鉄サービスを提供している。地域における交通システムを所管すれば、その地域の経済に大きな影響を与えることができる。交通は経済のため、住民のため、コミュニティのためにある。Transport for the Northの設立メンバーになることも喜ばしく思う。ノーザンパワーハウスの中心的動きとなる。

・ノーザンパワーハウスの動きや、特にTransport for the Northはイングランド北部の人々の声を代表している。新しい政治的構造を取り入れるべく、イングランド北部に内在する可能性のために一丸となって取り組んでいる。

・新幹線によっていかに経済成長がもたらされたかという2つの事例を学ぶことができた。まさに我々が、北部の鉄道や道路の接続を改善することで成し遂げたい経済成長モデルである。

Sarah Longlands氏

・Institute of Public Policy Research in the North (IPPR)は調査機関であり、私たちは特にイングランド北部の公共サービスや経済成長の質の向上への取り組みに関心を持っている。鉄道を接続性の改善だけでなく生活の質の向上にも生かしていることがわかった。それがノーザンパワーハウスの目指すところであり、鉄道はそれ自体で終わらず全ての人のより良い生活に資するものである。そのためにこの先のノーザンパワーハウスにとって日本から学ぶことは多い。

・われわれの投資を、大都市間の接続だけでなく、北部の小規模都市の接続性についても高めるために活用できるのか。大都市だけが観光や経済の恩恵を受けるのではなく広く恩恵を受けたい。

Henri Murison氏

・The Northern Powerhouse Partnershipは民間団体だが、ビジネスが主導することで北部は団結できる。しかしTransport for North のように法定機関ではないので、基本的にはロビー団体だ。イングランド北部のために声をあげていく。現在イギリスで行っていることについて、日本から多く学ぶことがあると思う。

・駅を経済成長の鍵と考えると、日本の例は非常に参考になる。HS2はまだ半分しか完成しておらず、そこから更に東の地域やスコットランドへの延長を議論しなくてはならない。Northern Power Railが周辺地域に恩恵をもたらし、HS2に接続されることでマンチェスターまでの移動時間が短縮されても更に北の地域への接続性が解決するわけではない。先週の大雪は列車を遅滞させたが、日本が持つ交通の回復力を英国では欠いている。また高速列車はすばらしいが、どれだけの乗客を乗せられるかが経済の視点からは重要である。

 

【第2部】

名川 進氏(JR東日本ロンドン事務所 副所長)講演

演題:「Regional Revitalization」

DSCN0073

・鉄道事業は地方自治体と密接に関係しており、地元自治体とともに前進していくことが重要である。

・現在では非鉄道事業であるライフスタイルビジネス事業が全体収益の3分の1を占める。

・日本では人口減少、高齢化社会、過疎化が深刻化しているが、日本における生活様式には変化が見える。グローバル化、テクノロジー活用、多様化などである。

・鉄道会社として観光振興、地域産業の活性化、地域開発の3つの分野で地域に貢献している。

 

【第2部パネルディスカッション発言要旨】

Panel2JLGC2017

Tim Wood

・自身もイングランド北部の出身であり、自分たちがすべきことがはっきり分かっている。鉄道システムの性質を変えていくことで北部の発展につなげたい。今後2050年までに85万の仕事を増やし、生産性の向上も図る。イングランド北部には1610万人の人口がある。国に置き換えるとヨーロッパで9番目の規模の国になる。

・北部の6つの互いのエリアとマンチェスター空港の接続性をもっと高めなくてはならない。Northern Power Railが建設されれば、その周辺の地域においての乗客収容能力も高まる。北部を7つの回廊地域に分け、道路、鉄道、貨物輸送についても接続性を高めたい。

・イングランド北部で鉄道を利用している人たちは4%であり、南東地域に比べると圧倒的に少ない。北部の主要な町に鉄道で1時間以内に到着できるのは1万人である。地域全体の人口は1610万人もいる。Northern Power Railの導入により130万人の利用に増加させたい。

Ed Ferrari

・鉄道については自身の研究テーマにも関連するのはもちろん、文化的、経済的、社会的にも重要な問題であり、さらには環境問題にも関連すると言える。社会の構成を考えるうえで、鉄道は重要なテーマである。

・大学の研究からも明らかなように、鉄道の導入だけでは経済成長は得られない。今日のセミナーの講演からもそれがわかる。鉄道の導入による最大限の効果を求めるなら、計画の段階での連携、計画の全体を見渡す戦略が必要である。私たちが6か月前に発表したレポートでは、政府からの投資がどこに流れるかを把握すべきと指摘した。

・イングランド北部には、経済成長から取り残され、交通機関へのアクセスも不便な、生活に困窮するコミュニティが数多くあることも分かっている。現在の交通システムが経済活動への参加を阻害している。ここ数十年のそうした地域に関する決定は必ずしもコミュニティにとって最善ではなかった。

Neil Firth

・自分は地方自治体であるドンカスターのインフラ整備計画の責任者である。ドンカスターはシェフィールドシティリージョンの中でも速い速度で経済発展している。ドンカスターの経済発展の理由には、鉄道インフラが基礎となり、鉄道産業の集積やそれらがよく連携していることがあげられる。

・ドンカスターは技術育成も重要視している。高速鉄道に関わる技術が産業の中心にかかわると考え、ドンカスターに高速鉄道技術学校を招致することに熱心だった。ドンカスターの経済成長が著しいことは先に述べたが、鉄道はそれを支えている。

Simon Bolton

・日立は2005年以降英国での事業を拡大してきた。2005年には事務所が1つしかなく、従業員は12人だった。現在は2000人の従業員がおり、事務所もロンドンに2つ、スコットランドに1つ、ミルトンケインにも1つある。

・英国には長期的投資を続けている。日本の投資方法は全く英国とは異なり、長期的かつ包括的である。

・先のパネリストが言った通りすべては人である。我々の投資の目的には技術の向上があり、雇用の拡大や教育の改善がある。どこで仕事をするにも地元地域と連携しており、100人程度の研修生や新卒者を各事業所で受け入れている。大学機関ともパートナーシップを築いている。

 

【質疑応答】

Q&A JLGC2017

質問1

今日のセミナーでは長期的計画を立てることの重要性が強調されており、ノーザンパワーハウスにもそうした立案についての役割が求められている。しかし計画を立てる中で、例えばBREXITのような事態が発生した場合にはどう対応するのか。

⇒NF: 長期的計画は肝要ではあるが、柔軟性や適応性も併せ持つ必要がある。BREXITにはもちろん欠点があると言えるが、新しいマーケットとつながる可能性というメリットも考えるべき。今ある資源を最大限に生かし、イングランド北部の発展につなげたい。先にも述べられていたように、北部には1600万人が住む。英国やヨーロッパにおける大きな経済勢力であり、自らのために資源活用をすべきだ。

⇒EF: BREXITに関しては、EUからの地域開発基金や建設基金を失うことを危惧している。EUを離れればこれらの基金も得られない。政府は代替策を講じると言っているが明確な案はまだない。地域におけるインフラ支援や社会支援、ビジネス支援などすべてについてこれまでEUから何等かの恩恵があった。それを失くした場合、北部の振興のためにも代わりの何かを必要としている。

 

質問2

今日も数人が政治的リーダーシップの重要性について言及された。今の政治的リーダーについてどう思うか、また何が是正されるべきだと思うか。

⇒TW:地元選出の国会議員とは、鉄道ルートの接続性について協議を重ねている。東西の接続性については、正しい意見を聞くためのフィードバックも行っている。私たちが提出予定の交通戦略計画へのコメントも歓迎する。今年の秋には発表したい。中央政府にも北部の意見を届けている。国務長官やノーザンパワーハウス担当大臣とも対話し、この変革の意味を伝えている。

⇒NF: 政治の世界でも声をあげるべきだ。声を一つにして話すことが大切だ。最近ではTransport for the North (TfN)が政治団体ではないが、北部のために発言している。北部においてTfNが私たちを代弁してくれなければ、それを私たち自身が引き受けなければならなかった。TfNは政治団体でないにもかかわらず、イングランド北部を広い視野で見ている。広い権限移譲や幅広い課題を狭めてはいけない。

 

質問3

日本では東京以外の都市間の接続性に関してどのように対応しているのか。

⇒堀内公使:日本では、小都市同士でなく、大都市と小都市を結ぶ。大都市同士を結ぶと乗客数が膨大になりすぎる。また経済はやはり大都市に集中している。

・HS3(Northern Powerhouse Rail)が開設するとすれば、リバプール-ヨーク間が結ばれるだけでなく、HS2による人の流れも取り込めると思う。このことでマンチェスターやリードだけがロンドンと連結されるだけでなくその他の都市にも首都との人の流れが生まれる。

・HS3が建設されれば、ロンドンからの需要を最大限に取り入れられるようになるのではないか。

・実際の日本の新幹線建設費は3分の2が国の予算、3分の1が地方自治体の予算で賄われるため、住民への説明義務が欠かせない。どういった経済効果等が得られるかについてしっかり説明をする必要がある。

 

質問4

日本ではどのような政治的環境において新幹線導入が決断されるのか。

⇒堀内公使:地方の住民の声を受け、地方選出議員の強い意見があることが、予算確保につながっているものと考える。しかし、鉄道について、英国ほど大きな予算は確保できない。

・メディアの批判にさらされることも課題。金沢市の人口は50万人程度であるが、そうした中規模の都市への高速鉄道の建設については、建設時には効果について一部批判的な報道もあった。しかし、完成してしまうと、多くの日本人は新幹線ができたことを好意的に受け止め、メディアも開業について好意的に報じられることが多い。

⇒名川氏:鉄道会社の立場から発言すると、東日本の地域創生に東京圏のマーケットを活用している。鉄道を利用して人を移動させている。またプレゼンテーションで述べたように地方から物を運ぶことでも、地方創生を目指している。鉄道は地域を結ぶ血管のようなものである。各地域にはそれぞれの魅力があり、地域との協働は非常に重要である。