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英国

英国のCovid-19流行下における相互支援制度

2020年11月30日 

出口の見えないCovid-19との戦いは様々なところに影を落としている。感染者数は秋以降、増加の一途をたどり英国政府は最初のロックダウンに続き再度、イングランド全域に及ぶ外出制限を講じることとなった。

10月末に英国政府から発表された11月5日からのイングランド全域での外出制限では、ルールに違反した際の罰金が初回で£200、違反を繰り返すと最大で£6,400が科せられる1。また、大規模な集まりを組織した場合は£10,000の罰金が科せられるなど非常に厳しい内容になっている2 3。しかし、英国政府は規制を強化する一方で、異なる世帯間、地域コミュニティー間の交流や相互支援機能の確保に苦心している。今回は英国のCovid-19流行下において実施されている相互支援制度について紹介する。

1前回のロックダウン当初は初回の違反で罰金£60、最大で£960
2https://www.gov.uk/guidance/new-national-restrictions-from-5-november
3(参考)2020/10の英ポンド平均140.61円, 外為相場(三菱UFJ銀行)TTS

 

支援の安全圏(Support bubble)

今回紹介する制度は支援のための膜で覆われた安全圏をイメージして、Support bubbleと呼ばれ、Covid-19の流行が落ち着きつつあった6月10日にジョンソン首相によって発表された4。この制度では自己隔離による孤独感を緩和する目的で、一人暮らしの18歳以上の独身の人、若しくは18歳以下の子供のいる片親の世帯が別の世帯とSupport bubbleを形成することが認められた。Support bubbleを形成すると同一世帯で暮らしているかのように行動でき、2メートルのソーシャルディスタンスなどのルールは適用されない。また、当然、お互いの家に泊まることも可能である。例えば一人暮らしの祖父母が孫と同じ世帯に滞在することが可能である。しかし、一度Support bubbleを形成すると変更することは出来ない。2019年度の時点で英国には820万人の単身者があり、290万世帯の一人親世帯があった5。その後、この制度は10月14日に始まった感染リスクを3段階に分ける新たな警戒システムにおいても継続され、11月5日からのイングランド全域の外出制限措置時でも引き継がれることとなった。

4生活必需品以外を扱う商店や屋外動物園、サファリパーク、ドライブインシアターは6月15日から営業が再開された。
5https://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/birthsdeathsandmarriages/families/bulletins/familiesandhouseholds/2019

 

育児バブル(Childcare bubble)

育児バブルは13歳以下の子供を抱えている世帯が他の世帯と形成することができる非公式の育児システムである。非公式というのは「自治体への登録をしない」、「無給」を指している。この制度を利用すると、Support bubbleと同様にバブルを形成している2世帯は同一世帯とみなされ、親が子供の面倒を見られない時に限り、子供をもう一方の世帯に預けることが出来る。また、コロナの感染拡大防止の観点から、遠方の世帯とバブルを形成することは避けるようにアナウンスされており、育児バブルを一度開始した場合、変更は出来ない。関係する2世帯の誰かがコロナの症状を呈した際には直ちに中止し、家に留まることとなる6

6https://www.gov.uk/guidance/making-a-childcare-bubble-with-another-household#what-a-childcare-bubble-is

このような行為はCovid-19の流行前から育児世帯が祖父母や近親者に子供を預けるといった形で行われていたが、Covid-19の流行に伴う最初のロックダウン当初は身内であっても別世帯同士の交流が禁止された。その後、ロックダウンが緩和される過程の6月29日に保育園などのチャイルドケアがキーワーカーのみから一般にも開放されたタイミングで政府からガイダンスが発表された7。しかし、これは現在の「育児バブル」ではなく、あくまでも従来行われていた祖父母や近親者によるチャイルドケアの延長であった。現在の「育児バブル(Childcare bubble)」が開始されたのは前述の10月14日に感染リスクを3段階に分ける新たな警戒システムが導入された時である。この時に子供を預ける場所を探すのに苦労している就労者向けの救済策として導入され、11月5日からの2度目のロックダウンにおいても同様の目的で制度が引き継がれた。

7https://www.nidirect.gov.uk/articles/coronavirus-covid-19-advice-about-childcare

上記で説明したこれらの制度について、私の身の回りでは、親族間の交流以外では、買い物や一時的な仕事に行く際に母親が別の近所の家庭に子供を預けるなどの形で利用されている。今回の外出制限措置は12月2日までで、その後の対応は感染状況次第となっており不透明な状況である。ジョンソン首相は10月31日の外出制限措置の発表時に「(今回の規制を指して)厳しい行動をとることで、国中の家族が(クリスマスに)再会できるよう、私は心から願っている」と述べており、12月2日以降もこの制度を含め異なる世帯間やコミュニティー間の交流がどのようになっていくのか、クリスマスを前に政府の対応に国民の注目が集まっている。

 

(2020.11 所長補佐 野坂)

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