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ADレポート「旅行好きな英国人と、英国内の観光地に見る日本との違い」

2021年12月08日 

英国人は海外旅行好きである。1年間に海外旅行へ行った人は5,867万人と、人口の6,647万人に迫る勢いだ [1]。

新型コロナウイルスが発生する前の状況を見ると、海外旅行に出かける時期としては、世界全体で見ると8月がピークとなっている [1]が、日本への旅行は3月から4月の桜の季節と10月から11月の紅葉シーズンがピークとなるなど、少し異なる傾向となっている [2]。また、1回あたりの休暇における宿泊日数は8.7日で、少しずつ短縮傾向にある [1]。

英国では2020年春から夏にかけてと2020年秋から2021年春にかけてロックダウンが行われ、海外旅行ができない期間が長く続いたが、帰国後の隔離が不要となるとすぐに海外旅行の予約客が爆発的に増加したというニュースも報道されていた。私の周囲にも、この機会にと海外の実家へ帰省したりホリデーを過ごしたりする人がいた。マスクの着用などを含め、規制以上の自粛を行う人は少なく、規制されていなければそれはやってもいい事であるという雰囲気であるため、日本への旅行も両国での規制が解除されれば、すぐに予約が増えるだろう。

また、英国人の海外旅行好きには、その気候や風土が影響しているのではないかと感じる。英国は夏でも冷涼である一方で、曇りや雨の日が多く、冬は午後3時頃には暗くなり始める。そのため、太陽が出ると公園に人が集まりピクニックを始め、中には水着のような格好で日光浴を始める人も現れる。海辺でも4月5月のまだ上着が必要な時期でもビーチで寝そべったり海に入って太陽の光を楽しんだりする人が増加する。この英国人の日光浴好きは、日本から来た私には大変特徴的に見えた。実際に、人気のある旅行先はスペイン、フランス、イタリア、ギリシャがトップ4となっており [1]、ビーチでの時間や日光を求めて旅行する人が多いことが想像できる。

まだ肌寒い5月初旬の海辺を楽しむ人たちの様子

ここからは、日本での観光地の整備や、英国人向けの情報発信に役立ちそうな、英国内の観光地を訪問した際に気付いた点をご紹介したい。

 

歴史的観光地

新型コロナウイルスの影響もあり、教会や美術館など含め、予約制を取っている施設が多い。無料であっても予約制となっている場合も多いため、事前の下調べが必要であるが、入場制限を兼ねており、ほとんど並ぶことなく、内部が人であふれているということも少ないという点では便利で安心できるともいうことができる。

ナショナルトラストや美術館などチャリティ団体が運営する施設では、ボランティアも運営をサポートしており、その施設の歴史や裏話などをとても楽しそうに話してくれる方に出会うことがある。ナショナルトラストの管理する邸宅でボランティアをしている女性と話した際には、その施設のことが好きでボランティアをしているということが伝わってきて、こちらも非常に充実した気持ちになった。

ナショナルトラストの管理する邸宅の一室

また、石の壁のみが残るお城や教会などでは、壁や階段が崩れそうになっていたりと、危険なのではと感じるような場所もあるが、しっかりとした柵などで予防措置が施されている場所ばかりではなく、訪問する側が自ら安全に配慮する必要がある。一方で、最低限の柵や景観を壊さない案内板や注意看板の設置によって、その場の空気に入り込んで楽しむことができる。

石の壁のみとなっているお城でも中に入ることができる

古い町並みの保存にも大変力が入れられており、町並み保存地区では窓の修理やアンテナの設置も厳しく制限されている。中には外観からも明らかに歪んでいる建物も見かけられ、中に入ってもかなりの傾斜を感じることもあった。このような建物や、崩れかけの石造りの建物を保存できるのは、地震がないということも大きく影響していると強く感じる。また、新しい建物であっても、色がその街に馴染むように作られており、景観が保たれている。

全体が大きく歪んでいる建物

古い建物の立ち並ぶ美しい小路

 

国立公園や自然保護区等

国立公園などでは、老若男女を問わずハイキングを楽しむ姿を見かけた。ウォーキングルートもよく整備されており、看板を手掛かりにハイキングを楽しむことができる。

ハイキング、サイクリング(マウンテンバイクなど)や、乗馬などのガイドツアーは、1週間などの長期にわたるものも多く募集されており、その地域を深く楽しむことができる。日本でも熊野古道や四国八十八か所など、同様な長期間のウォーキングツアーなどを提供している場所があるが、このような長期間のツアーを行うには、それだけ広範囲に特徴的な景観や地形が広がっており、それだけのルートが整備されているということもできるだろう。逆に、1日や2日で楽しめるツアーを探すことに苦労することもあった。

ダートムーア国立公園を、4日間馬で旅をするツアーに参加したことがある。このツアーで周囲に何もないような広大な荒れ地を歩いている最中に、ハイキングする家族やオリエンテーリングをする学生、犬を連れて歩く人や、マウンテンバイクに乗った人に出くわすこともあり、こちらが驚かされた。同時に、4日間の旅となると、一緒に参加している人とも食事を共にするなど密接な交流が生まれ、ツアー後も交流が続いている。長期間にわたるツアーの醍醐味とも言えると共に、「人」が重要なファクターとなると感じた。

ピークディストリクトやコーンウォール、シェットランド島などのウォーキングルートを歩いたが、どこもよく整備されており、急なアップダウンがあったり道が細い場所があったりするものの、ごみが目についたり、ひどく道が荒らされているということもなかった。一方、日本人の感覚でいえば危険だと感じるような場所も見られた。例えば、ピークディストリクトでは、毎年数センチずつ地面が動いており、道の途中でかつての大規模な地滑りを起こした際の段差が残されている場所がある。ここは、現在はマウンテンバイカーがジャンプをするなどして楽しんでいるが、すぐ横をハイキング客も歩いている。また、シェットランド島のウォーキングコースは、断崖絶壁のすぐ横を通っており、一歩足を踏み外せば崖から転落し海に落ちてしまうのではと感じるほどであった。このような場所でも、ある種の自己責任と、周囲への配慮を前提に、自然を楽しもう、というのが英国流であるように感じる。

地滑りの現場もそのまま楽しむ

英国最北端の自然保護区にあるウォーキングコース

さらに、雨が多い国ということもあり、これらアクティビティは雨でも催行される。英国人に雨の中でのハイキングを心配していることを話すと、「雨もそれはそれで楽しいよ」と言われるほどである。

 

交通機関

 鉄道発祥の地である英国では、かなりの範囲で鉄道が整備されている。しかし日本と比較するとやはり遅れることも多く、不便に感じることもあった。特にロンドン市内の地下鉄は、週末になると工事や人員不足で運休や遅延が発生する。日本の鉄道の正確さに感動するといわれるのも理解できる。

 自然を楽しみたいと思うと、やはり車が必要となることもある。英国ではマニュアル車を運転する人の方が多いが、レンタカーではオートマチック車を選択することもできる。日本と同じ左側通行であるころもあり、何度か車を運転する機会があったが、ラウンドアバウトがある以外はさほど違和感なく運転することができた。英国から日本を訪れる人も、運転しやすいと想像できる。交通規則上、片側一車線の道路でも制限速度が100キロ近いことと、飲酒運転に関する規制が寛容で、一般的な英国人であればビール2杯であれば運転しても良いようなルールとなっている。英国で運転するのに慣れた人が日本で運転する場合は、速度違反と飲酒運転には普段以上に気を付ける必要がある。

 

食事

 イギリスでは外食は日本より高額で、ロンドン市内であれば最低15ポンド(2,000円)からといった価格だ。その分日本では割安に感じるだろう。

 お昼からレストランでワインを楽しむ人を見かけることもあるが、参加した馬での旅やハイキングツアーなどでは、昼食は1種類のサンドイッチとりんごなどといったシンプルなものを食べていた。こちらで色とりどりの食材の入ったお弁当を見かけることは無いため、駅弁や幕の内弁当などには日本らしさを感じてもらえるだろう。

 一方、イギリスでの身近な日本食のイメージは、寿司、カレー、ラーメン、餃子、照り焼き、焼きそばといったところだろうか。これらはスーパーや日本食ファストフード店でも購入できるため、これらのメニューであれば、日本で本場の味を楽しむことができ、他のものであれば新たな日本食を味わえることになるだろう。

 さらに言うと、英国ではどこに行っても同じチェーンのパブがあり、チェーン店でなくても出される料理の種類はあまり変化がない。その点、日本では地域ごとに特色のある郷土料理が存在することは、英国とは異なるということができるだろう。そもそも郷土料理という概念があまり浸透していないため、そのことから説明する必要があるかもしれない。

 英国では市町村規模で観光プロモーションを行うことは稀で、日本でいう県規模で広域にプロモーションを行ったり、文化や自然環境の保護といった文脈で観光資源の整備が行われたりすることが多い。また、ナショナルトラストなどチャリティ団体の活動も活発で、寄付やボランティアの貢献度も高い。英国内の様々な場所を訪れる中で、文化や自然環境、羊毛の生産といった地場産業の保護や整備に重点を置くことで、自然と観光地としての魅力が高まっていくのではないかと感じた。

 取り巻く環境は異なる部分も多く、少し危険だったり、不便だったりしても景観やアクティビティを重視する姿勢は、日本で受け入れられるのは難しいだろう。しかし、このような状況に慣れた人たちが訪日することを考えたり、取り入れられそうな良い点は真似したり、日本の方が優れている点は、より丁寧にアピールしていくと、英国の方により楽しんでもらうことができるのではないだろうか。

 

参照文献

  1. Statista. Vacation travel behavior in the United Kingdom. 出版地不明 : Statista, 2020.
  2. JNTO. 英国からの訪日旅行の現状と展望について(オンラインセミナー資料). (オンライン) https://www.jlgc.org.uk/jp/wp-content/uploads/2021/07/05ccabdda712426af10f913e8365c3fe.pdf.

 

(2021.12 所長補佐 金子)

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