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ADレポート「英国の行政のデジタル化~政府・自治体レベルでのシステム共通化の取り組み~」

2022年02月15日 

英国において、政府レベル、自治体レベルそれぞれで、システムの共通化の取り組みが活発化しており、その内容について以下に紹介する。

 

(1)政府レベルの取り組みについて

まず、英国政府においては、デジタル化を推進する専門組織としてガバメント・デジタル・サービス(GDS)が内閣府に 2011 年に設置された。その後、政府のデジタル化戦略としてGovernment Digital Strategy 2012 が策定されており、「利用する側にとって便利な時間・方法で情報とサービスにアクセスできること」「開発や運営の効率性と費用対効果が高いこと」を施策の2つの柱として、電子政府の推進を図っている。

その具体的な成果として、2012 年に運用を開始した英国政府の Web サイト「GOV.UK」があり、それまでの省庁ごとに作成・管理された Web サイトではなく、政府として統一された共通プラットフォームとして運用されている。

また、英国政府は、その共通プラットフォームの「GOV.UK Pay」「GOV.UK Notify」といった一部機能について、自治体をはじめとした公的機関向けに提供している。「GOV.UK Pay」は、電子決済サービスであり、 導入費用のみ(月額費用なし)で、 2021年10月現在で、314自治体が使用している。また、「GOV.UK Notify」は、通知・管理サービスであり、 公共機関からの通知(eメール、テキストメッセージ、手紙)を、設定されたテンプレートに基づいて一括送信・管理を行うことができる。また、Webサイトや内部システムとも連携させることにより、通知の自動送信の設定を行うことも可能である。初期費用はなく、eメール通知の場合は無料となっており、2021年10月現在で、自治体を含め、1,159の公共機関が使用している。

 

(2)自治体レベルの取り組みについて

自治体レベルのデジタル化推進のため、2018年に、ローカルデジタル宣言(Local Digital Declaration)が、45の地方自治体及び政府の関係省庁(DLUHC:Department for Levelling Up, Housing and Communities:レベリングアップ・住宅・コミュニティ・地方自治省)等によって策定された。(2022年2月現在で、宣言への署名主体数は、自治体を中心に269にまで拡大している。)

この宣言では、下記の5原則が示されている。

  • 私たちは、サービスを利用する人々のニーズを中心にサービスを再設計します。これは、専門的、組織的、技術的な課題(による縦割りな行政側の都合)よりも、市民やユーザーのニーズを優先し続けます。
  • 私たちは、柔軟性に欠け、高コストな技術への依存を断ち切るために、自分たちでシステムのメンテナンスを行います。これは、私たちが依存するITのためのシステムのモジュール化と、私たちが作成するデータ構造の共通化をするためのオープンな標準化を行うことを意味します。
  • 私たちは、パートナーや市民との信頼を築き、コミュニティの中で最も脆弱な人々をより良く支援し、より効果的にリソース提供を行うため、安全・安心かつ効果的な情報提供方法を設計していきます。
  • 私たちは、デジタルリーダーシップを発揮し、真の組織改革を実現するための条件を整え、私たちが関わるすべての人々にこのローカルデジタル宣言を受け入れるよう働きかけていきます。
  • 私たちは、従業員一人ひとりがデジタルな働き方を尊重し、推奨し、期待する、オープンな文化を根付かせます。これは、できる限りオープンに仕事をし、私たちの計画や経験を共有し、他の組織と協力し、優れた実践事例を再利用することを意味します。

 

このローカルデジタル宣言による施策推進のため、DLUHCが、地方デジタル基金を設置し、各種プロジェクトに資金提供を行っている。そのプロジェクトの1つが、2019年頃にロンドンのクロイドン区と、イングランド南部のブライトン・アンド・ホーヴ市によって構築された「LocalGovDrupal」というパブリッシングプラットフォーム(コンテンツ管理システム)である。

 

そもそもこのシステムは、政府の共通プラットフォームである「GOV.UK」から着想を得て、そのアプローチを自治体レベルで適用した、”自治体のための、自治体によって作成された”オープンソースのコンテンツ管理システムである。

「LocalGovDrupal」は、2020年に地方デジタル基金からの資金提供を受けて、より一層の機能強化を行ったことや、開発コストが安価であること(自治体向けに無償で提供されている)、開発期間が通常のシステム導入よりも大幅に短縮できることなど、自治体にとって様々なメリットがある。それにより、公開されてから数年しか経過していないにも関わらず、このシステムを導入した自治体は、2022年2月現在で、24団体にまで拡大している。

また、このシステムの導入自治体が急増している背景・要因としては、2018年に政府が公共機関のウェブサイトにおける、(障害者等も含めた誰もが利用しやすいウェブサイトとするための)アクセシビリティガイドラインを示したことを受けて、各自治体がこれを遵守するためにシステムの改修または別システムへの更新が必要となった時期と重なったこともあげられる。

なお、この「LocalGovDrupal」のプロジェクトによる経済的効果として、Webサイト1つ当たりの導入費用として、最大で12万ポンドの費用(税金)を節約できると推定されており、さらに今後5年間で全体として700万ポンドから1200万ポンドの節減につながると予測されている。

(例:ロンドンのウォルサムフォレスト区では、「LocalGov Drupal」を活用することで、9万ポンド相当の開発コストと、3〜6か月の開発期間を削減)

 

おわりに

日本においても、総務省が自治体情報システムの標準化・共通化を推進しているほか、Code for Xが開発したアプリ(例:Code for Kanazawaによるゴミ出し方法の情報提供アプリなど)を多数の自治体が利用する事例などが見られる。世界中でデジタル化が急速に進む中、行政が効率的にそれを実現していくためにも、今後も多様な主体(政府、自治体、民間)が主導する様々なシステムの共通化の事例が見られるものと思われ、今後ともその動向に注目していきたい。

(2022年2月 所長補佐 西川)

 

出所:

https://www.jlgc.org.uk/jp/wp-content/uploads/2021/10/211025_seminar.pdf

https://beeckcenter.georgetown.edu/wp-content/uploads/2021/10/LocalGov-Drupal-Case-Study.pdf

https://www.annertech.com/blog/annertech-localgov-drupal

https://www.rsnonline.org.uk/localgov-drupal-secures-further-funding-from-the-dluhc-local-digital-fund

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