Japan Local Government Centre (JLGC) London > 調査・研究 > 欧州の地方自治情報 > 英国 > 英国の地方自治メモ > BBCのドキュメンタリー番組で放送されたイギリス最大の特別支援学校Ysgol Y Deri

調査・研究

ADレポート

英国

BBCのドキュメンタリー番組で放送されたイギリス最大の特別支援学校Ysgol Y Deri

2021年01月26日 

ウェールズ最大の都市であるカーディフからほど近いPenarthという町に、3歳から19歳までの330人の生徒が通うイギリス最大の特別支援学校がある。Ysgol Y Deriである。Ysgol とはウェールズ語で学校という意味があるようだ。この学校を知ったのは、BBCが特集していたドキュメンタリー番組を見たからであるが、その際、生徒がはつらつとして学校生活を楽しむ様子が印象的であったため、この学校に興味を持った。BBCのドキュメンタリー番組の制作者が、取材する中で一番記憶に残ったことは、Ysgol Y Deriの職員が生徒の能力を信じ、チャンスをつくり、障壁を取り除くことで、能力を最大限に発揮できるようにサポートするという学校の理念であると語っている。

では、教師はどのように生徒たちをサポートしているのだろうか。その1つに、テクノロジーの活用がある。

Ysgol Y Deriの教師であるLisa Rees-Renshaw氏は、テクノロジーに精通しており、自閉症や裂脳症などにより声を出して意思疎通を図ることが難しい生徒に、視線など身体の微妙な動きによってコンピュータ化された音声システムを操作できるよう、パソコンやタブレットの使い方を教え、生徒とのコミュニケーションを図ってきた。彼女は、生徒のニーズを注意深く読み取り、それをパソコンやタブレットの設定に反映し、会話や授業を受けることを可能にするだけではなく、自立し自分の世界を持つことができるよう、生徒の手助けをしてきた。大きな意味では、まさに生徒の人生を変えたと言える。彼女のテクノロジーを駆使した教育は、生徒とその保護者からも大いに評価され、校長の推薦により、イギリスで優れた指導を行う教師を称える賞Pearson National Teaching Awardsを2017年に受賞している。

この他にも学校では、障がいにより登山が難しいと思われる生徒に山の頂上からの美しい景色を見たり、ジェットコースターに乗るという体験を提供するためにドローンやバーチャルリアリティ(VR)が利用されている。

また、一人一人の生徒の卒業後の自立を目指していることから、14歳から19歳の生徒は、校内の生徒、職員や来客が利用できるカフェで実際と近い職業経験を積み、自立に必要不可欠なスキルを身につけている。健康や安全管理、衛生管理、金銭管理、職場のルールの遵守、顧客対応といったスキルである。

そして、最も重要なことは、生徒たちが最終的にたどりつく先が、彼らが望む場所であるかどうかであると考え、300人の教師が、生徒ひとりひとりに合う学習環境をつくっている。もし14歳の生徒が将来シェフになりたいのであれば、5年間の計画を立て、学校にあるプロ専用の厨房を利用し、十分な職業経験を積ませて、自信を持たせるために課外授業を行うという。

Ysgol Y Deri は、2014年に3つの特別支援学校が統合してできた特別支援学校である。幅広い学習機会を一つ屋根の下で提供することを目的として、同じ建物に、11歳から16歳までの生徒が通うセカンダリースクール(日本でいう中学校)であるSt Cyres Schoolも入っている。23,500㎡の敷地を誇るこの建物は、Penarthラーニングコミュニティと呼ばれ、ウェールズ最大の学習施設である。Ysgol Y Deriには、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、バランス感覚を養うカリキュラムを行う専用の教室や、プールがある。また、生徒の家族が一時的にケアを代わってもらい、リフレッシュを図ることができるよう、レスパイトのための施設が併設され、19人が利用できる。

Penarthラーニングコミュニティは、ウェールズ政府による「21世紀スクールプログラム」という長期的に教育を支援するプログラムの一環として位置づけられている。このプログラムは、ウェールズ政府、ウェールズ地方自治体協議会(The Welsh Local Government Association)、自治体、大学等が連携し取り組んでいる。

Penarthラーニングコミュニティを所管するヴェール オブ グラモーガン カウンシルでは、「21世紀スクールプログラム」の実施に2019年4月から2024年3月までの5年間で1億3,500万ポンドの費用を見込んでいる。

2019年度におけるウェールズの全特別支援学校に対する支出は4億500万ポンドで、前年度比で6.1%の増加しており、毎年増加傾向にある。

Ysgol Y Deriの校長のBritten氏は、生徒や学校の理念について以下のとおり話している。

「生徒を障がい者というよりは、それぞれに多様で異なる能力を持っていると考えています。(略)」

「私たちは、ここ(学校)で、生徒たちが‘できる‘ことを増やしていく文化を育てなければなりません。できることが増えれば、生徒たちはもっと自分のことが好きになります。(略)」

「私たちの理念の根底にあるのは、生徒の幸福と自尊心です。」

現在、Ysgol Y Deriの生徒数は増加傾向にあるため、新たに150人の生徒が通うことができる校舎をYsgol Y Deri の付属として建設し、2023年に開校する予定だ。

(所長補佐 萩ノ脇 2021.1)

 

(参考)BBCで放送されたドキュメンタリー番組

https://www.bbc.co.uk/programmes/p08s8g0t

Ysgol Y Deriホームページ

https://www.yyd.org.uk

Ysgol Y Deri学校ガイド

https://drive.google.com/file/d/1mw5OYnvu3wY4DZupxzef7vHGS2nR8ZGK/view

 

ページの先頭へ