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ADレポート「オックスフォードの穴窯―在英日本大使館にて展覧会を開催―」

2022年01月26日 

説明ボードの前の作品

オックスフォードの郊外に日本の伝統的な穴窯が3つあることをご存じだろうか。
2014年にオックスフォード大学ケーブルカレッジのロビン・ウィルソン博士の構想を基に、岡山県備前市の人間国宝、伊勢崎淳氏とのコラボレーションによって実現された窯である。最初の窯は備前から輸入したレンガを使い、備前焼の窯元である瀧川卓馬氏が自身の持つ穴窯と同じ釜を築造した。2つ目の窯は、オックスフォードの陶芸家たちによるボランティアチームが、考古学的な調査をもとに、備前にある室町時代の窯の様式で造ったものだ。そして、3つ目の窯はより小型のもので、2017年に瀧川卓馬氏がアーティスト・イン・レジデンスとしてオックスフォードに滞在した際に築造したものである。

これらの窯でのプロジェクトは、日本の歴史的な陶芸の手法を忠実に再現するためというよりも、日本の穴窯での陶芸を多くの人に知ってもらいながら、様々な陶芸家や団体が、ニュートラルな立場で共に焼き物を作る、グローバルなコミュニティが集まる場を提供するという、教育的、社会的な意義を大切にしているとのことである。

今回、2021年の10月から11月にかけて、この3つ目の窯を用いて2回の窯炊きが行われ、そこで製作された作品の展覧会「ASH, EMBER, FLAME: a Japanese Kiln in Oxford」がロンドンにある在英日本大使館で開催されている。
作品の製作にあたっては、英国内外の著名な陶芸家や新進気鋭の作家、地域団体、小学生らが各地の工房や開催されたワークショップで成形したものを乾燥された状態でオックスフォードに集め、焼成するという方法が取られた。
企画時点で既に新型コロナウイルスが問題となっていたが、この方法を取ることによって、オックスフォードに多くの人が一堂に会す必要が無くなり、感染状況にあまり左右されずにこのプロジェクトは実施することができた。
会場に展示されていた作品も、その参加者の多様性を反映し、小学生が初めて作っただろうものから本格的な日本の焼き物らしい形のもの、抽象アートのようなものまで様々であった。

横から 現代劇な作品

中には、岡山の備前の土を取り寄せて作られた作品もあった。備前の土は、比較的低温で長時間かけて焼かないとひびが入ってしまうそうだ。今回使用したオックスフォードの穴窯では備前の穴窯よりも高温となるため、イギリスの土と混ぜることで、ひびが入らずに焼けるよう調整されたという。備前とイギリスの土が一つの作品に混ぜられているということも、日英の交流の象徴のように感じられた。

ちょうど私が訪問した時には、日本の焼き物愛好家であろう男性が熱心に各作品を眺めたりメモを取ったりしており、それぞれの技術に心を奪われているようであった。
また、大使館の担当の方が「イギリス人がワインについて専門的な用語を使ってうんちくを語りながら楽しむように、日本では器について語り合うんですよ」と来訪者と話しているのを聞き、確かにその通りかもしれないと思うと同時に、とてもおしゃれな表現だと、日本人として少しうれしい気持ちになった。

これまでは、有田焼のような色鮮やかな磁器が人気であったが、最近は備前焼をはじめとした素朴な陶器の人気も高まっているようである。日本の陶器を扱うお店で備前焼の評判についても聞いたことがあるが、土そのものの色や感触を楽しむ人も増えてきており、ビールがおいしく飲めると聞いて備前焼のカップを買い求める人や、わざわざ新作が入荷されていないか定期的に来店して確認する人もいるとのことであった。

日本の伝統的な陶芸が、遠く離れたイギリスでも人々を惹きつけ、日本とイギリスの間のみでなく、イギリス国内の交流をも生んでいる様子を見るのはうれしいものである。
単発のイベントに留まらず、日本の伝統を核として現地でコミュニティが広がっていくこのような取り組みが今後も増えることを期待したい。

 

※写真は在英日本大使館提供
(2022年1月 所長補佐 金子)

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