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ADレポート「英国における新型コロナウイルス感染状況及び規制緩和に向けた取り組みについて(2021年6月時点)」

2021年06月22日 

本レポートでは、2021年6月時点の英国における感染者数の推移及びワクチンの接種状況、規制緩和の様子などについて報告する。

(2021年5月時点の感染状況などについてまとめたレポートはこちら

1 英国における感染者数の推移

2021年5月17日、イングランドでは予定どおり、ロックダウン緩和策の3段階目である「ステップ3」に移行し、博物館や美術館、劇場が再開されたほか、レストランやパブ、バーなどの飲食店における店内飲食が可能となった。

一方、同時期に、ボルトン、ブラックバーンを始めとするイングランド北部の複数地域において、インドで発見された変異株(デルタ株)の感染が拡大した。感染力は従来型よりも60%程度強いという調査結果[1]も出ており、英国内において急速な広がりを見せている。現在(6月15日時点)の一日の新規感染者数は7,673人(10万人当たり11.49人)にものぼり、全感染者のうち、9割はデルタ株となっている。約一カ月前の5月11日時点の新規感染者数(2,474人)と比較すると、その数が急増していることが分かる。一方、一日の死者数は10人(10万人当たり0.01人)にとどまり、ワクチンの効果により、重症化する患者が減少していることもみてとれる。

<図1 英国内一日あたり感染者数・死亡者数(6月15日)[2]>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 英国におけるワクチンの接種状況

英国では、現在(6月14日時点)までに、4,183万人(成人人口の79.4パーセント)が1回目の接種を、3,020万人(成人人口の57.4パーセント)が2回目の接種を終えている。イングランドでは、6月16日よりワクチン接種対象者が21歳以上の若者まで拡大され、7月末までに18歳以上の全成人の1回目のワクチン接種を完了させるという目標達成に向け、さらなる接種促進に取り組んでいる。

また、当初、英政府はより多くの人に1回目のワクチン接種を完了させるため、2回目のワクチン接種との間隔を最大12週間としていたものの、デルタ株に対しては、ワクチンを1回接種しただけでは防ぎづらいとのデータ[3]があることから、6月15日より、40歳以上について、その間隔を8週間に短縮することとした[4]。

<図2 英国ワクチン接種者数(6月14日)[5]>

 

 

 

3 規制解除の延期を発表

イングランドでは、今年2月22日に発表された、「新型コロナウイルス対策 2021年春」(原題:COVID-19 RESPONSE – SPRING 2021[6])に沿って、3月より規制の段階的解除を進めており、上述のとおり、先月17日には「ステップ3」に移行した。さらに、今月21日には、規制解除の最終段階である「ステップ4」への移行により、すべての規制が解除されることが予定されていたが、デルタ株の感染拡大を受けて、英政府はより多くの人がワクチン接種を完了させる猶予を得る必要があるとし、6月14日、「ステップ4」への移行を4週間後の7月19日に延期することを発表した。ただし、結婚式や葬儀等の行事や介護施設の訪問、欧州サッカー選手権「UEFA EURO2020」などの一部大型イベントの実施については、6月21日以降、一部の制限を解除することも発表された。

さらに、デルタ株の感染拡大が著しいイングランドの14の地域の住民については、政府から行動ガイダンス[7]が発表されており、社交はできる限り屋外で行うこと、同居していない人とは2メートルの社会的距離を保持すること、感染拡大地域を発着地とする旅行を控えることなどが推奨されている。

4 NHSアプリ「NHS COVID-19」

日本で利用されている接触確認アプリ「COCOA」と同様に、イングランド及びウェールズにおいても、NHS(国民保健サービス)の公式アプリ「NHS COVID-19」[8]の利用が推奨されている。

同アプリは、昨年9月にリリースされ、Bluetoothによる接触者の検知、居住エリアの感染状況アラート、施設へのチェックイン及び記録、症状の自己診断、検査の予約・検査結果の記録、自己隔離時の日数カウントダウンなどの機能を持ち、利用者は、スマートフォンやタブレットにアプリをダウンロードして使用することができる。

現在、イングランドでは、飲食店や博物館、美術館などのすべての接客施設において、入場記録のため、訪問者のチェックインが義務付けられている。訪問者は、アプリを起動した上で、施設のエントランス等に掲示されているQRコードをスキャンすることで、チェックインを行うことができる。なお、アプリのダウンロードは任意のため、アプリを持たない場合は、氏名及び連絡先を施設の職員に提供することで入場することが可能である。施設を訪れた人の中から、後日陽性者が出た場合、同時間帯に同じ施設にチェックインしていた訪問者に対して、アラートが発出される仕組みとなっている。

施設管理者は、それぞれの施設専用のQRコードを作成する必要があるが、煩雑な手続きは必要なく、NHSの公式ホームページからオンラインで申請・作成することができる。申請にあたって必要となる情報は、施設の住所及びメールアドレスのみとなっており、申請後に、登録したメールアドレス宛てにQRコード付きのポスターの画像データが送付され、このデータを印刷し施設内に掲示することで、施設側の準備は完了となる。

5 おわりに

5月17日に「ステップ3」へ移行されたことにより、長らく閉館に追い込まれていた博物館や美術館等が再開された。ロンドン市内の博物館・美術館の多くは入場料が無料であるが、入場者数を制限するため、来場前のオンライン等による事前予約が必要となり、人気の博物館では、入場時間のタイムスロットは30分刻みに設定され、来場者数の分散化が行われている。館内の見学ルートも一方通行に整理され、トイレなどの狭い空間に入るドアの前には、人数のカウント及び誘導を行う係員が配置されるなど、感染対策を徹底しながら、営業を再開している。

一方、「ステップ4」への移行が延期されたことにより、昨年3月より営業停止を続けてきたナイトクラブの再開は先延ばしとなり、劇場、映画館やライブハウスなどでは引き続き、人数を制限した営業が続くこととなった。夏にかけて開催が予定されていた音楽フェスティバルも次々とキャンセル又は延期が決定されるなど、エンターテインメント業界は未だ苦境に立たされている。一日も早く、多くの店舗、劇場にて通常通りの営業が再開され、英国のエンターテインメント業界に活気が戻ることを期待したい。

[1] Confirmed cases of COVID-19 variants identified in UK – GOV.UK (www.gov.uk)

[2] Daily summary | Coronavirus in the UK (data.gov.uk)

[3] Vaccines highly effective against B.1.617.2 variant after 2 doses – GOV.UK (www.gov.uk)

[4] Covid: When will I get the vaccine? – BBC News

[5] Daily summary | Coronavirus in the UK (data.gov.uk)

[6] COVID-19 Response – Spring 2021 (Roadmap) – GOV.UK (www.gov.uk)

[7] (COVID-19) Coronavirus restrictions: what you can and cannot do – GOV.UK (www.gov.uk)

[8] NHS COVID-19 app launches across England and Wales – GOV.UK (www.gov.uk)

(2021年6月 所長補佐 中村)

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