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ADレポート「歴史的建築物を活用した再開発 ~約40年の時を超えて生まれ変わったバタシー発電所~」

2022年11月03日 

ロンドンの街を歩いていると、古い建物が多く残されていることに気がつく。こうした建物たちがいかにもロンドンらしい風情を醸し出している。

英国では歴史的建築物の保護にあたって保護地域を設けているほか、Listed Buildingという制度がある。特別な建築物や歴史的価値のある建物は同リストに登録され、保護を受ける。リストにはその建築物の重要度に応じてグレードが設けられており、ロンドンを含むイングランドの場合は、上からグレードⅠ、グレードⅡ*(グレード・ツー・スター)、グレードⅡの順に3等級に分類される。グレードⅡには一般の住宅も含まれ、英国内の約50万棟の建物が指定されている。そしてこのリストに登録されている建築物の改修にあたっては、自治体の許可を取得する必要がある。

ふとした会話の中にも、英国人たちの古いものに対する愛着とそれに基づく保護意識のようなものを感じる。とある友人宅もグレードⅡに指定されているそうで、訪問した際、多少の不便に不満をもらしつつも歴史ある住宅に住んでいることを誇りに思い、この家にいかに愛着を持っているかを語っていたのが印象的だった。

歴史的建築物の保護のためには相当の維持管理費用がかかることもあり、建物をそのままの形で維持するだけではなく、新たな用途を見出し、うまく再利用しながら残されている建物もロンドンには多く見られる。

2022年10月14日(金)に新たな姿で一般公開されたバタシー発電所もその一つだ。閉鎖から約40年、ロンドンの歴史ある建築物の一つであるバタシー発電所は、単に修復されるだけでなく、住居や宿泊施設、オフィス、ショップ、映画館、展望台などを備えた複合施設として再整備された。旧発電所の建物そのものだけでなく、周辺地域も含めた大規模な再開発計画である。

【再開発のマスタープラン(BATTERSEA POWER STATION HPより)】

 

バタシー発電所はA、Bの2基の火力発電所が備えられた施設だった。バタシーA発電所は1933年、B発電所は1955年に運転を開始し、ロンドン中に電力を供給してきた。それぞれ1975年、1983年に操業を停止したが、その個性的な外観は街のランドマーク的存在になっており、建物保存の動きが展開された。この際、建物の保存にも費用がかかることもあり、民間資本による再開発を図ることとなった。なお、発電所の建物自体は1980年にグレードⅡに指定され、その後2007年には1つ上のグレードであるグレードⅡ*に引き上げられている。

再開発の過程にも紆余曲折あったようだ。1987年にはイギリスの工業をテーマにしたテーマパークの建設が試みられたが、1989年に開発はストップ。1993年には複合レジャー施設の建設が計画されたが、これも頓挫した。その後もサッカースタジアムの建設等様々な案があったそうだが、結果的に2012年に現オーナーであるマレーシアの企業が買収し、現在の計画による再開発が始まった。

オープン直後の16日(日)、早速見学に伺ったので様子を紹介したい。

4本の煙突がそびえ立つ、荘厳な外観。間近で見ると、かなりの迫力を感じる。

【 BATTERSEA POWER STATIONの外観(筆者撮影)】

 

【再開発計画の一部である周辺の住居やオフィス(筆者撮影)】

 

商業施設部分は「タービンホールA」と「タービンホールB」に分かれており、それぞれ全く違った雰囲気を演出している。

【タービンホールA(筆者撮影)】

 

【タービンホールB(筆者撮影)】

 

建物内には当時のレンガの壁がそのまま使われている部分もあり、歴史を感じることができる。また、発電施設の一部も展示されており、その周りにはユニフォームを纏ったスタッフがいて当時の様子を説明してくれる。

【レンガの壁(筆者撮影)】

 

【発電施設の一部(筆者撮影)】

 

他にも、バタシー発電所の歩んできた道のりや再開発の経緯などについての展示が設けられており、その歴史を学ぶことができる。

【運転開始から再開発までの歴史(筆者撮影)】

 

【再開発の経緯(筆者撮影)】

 

商業施設内にはレストランやファッションブランドなど様々なお店が並んでおり、老若男女問わず多くの人々で溢れていた。10月14日(金)のオープンから16日(日)までの期間で25万人もの来場者を記録したという。今後、映画館や展望台などが順次オープンされる予定とのことだ。

一見他の商業施設と何ら変わらないようにも思えるが、単に買い物を楽しむだけの場所というだけではなく、発電所としての当時の姿や歩んできた経緯を学習できるコンテンツが整備されており、来訪者に歴史を感じさせる工夫が施されている。

日本においても歴史的建築物をどのような形で保存するか、管理費用の観点からそもそも維持するか否か等様々な議論があるだろう。地域の遺産として歴史的価値のある建築物を保存したいと思う人々がいる一方、費用の問題で取り壊されてしまう建築物が数多くあることもまた事実である。こうした文化財の保護は重要なテーマであるが、歴史を後世に受け継ぐという視点だけではなく、いかに新たな価値や利益を生み出すような形として残せるかという点が一層重要になってくるものと思われる。

バタシー発電所は民間投資により新たな形で再利用され、保存されることとなった。同施設はこれから市民にとってどのような存在となり新たな歴史を積み上げていくのか、今後に注目したい。

ロンドン事務所所長補佐 中込

参考:

https://historicengland.org.uk/listing/what-is-designation/listed-buildings/

https://batterseapowerstation.co.uk/

https://www.bbc.co.uk/news/uk-england-london-63234124

※その他、BATTERSEA POWER STATION内の展示から

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