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活動記録

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2009年01月28日


スピーカーシリーズ「持続可能な観光を用いた地域再生」

●日時 2009年1月28日 14:00~15:30
●講師 Dr. Jane Lutz, INLOGOV University of Birmingham
●会場 (財)自治体国際化協会ロンドン事務所会議室


ご講演要旨
・私はバーミンガム大学において観光をテーマに研究・講義を行っている。今まで、政府や自治体による観光政策や、文化・スポーツ・観光を利用した地域再生などについて調査してきた。今回は、英国の「持続可能な観光」(sustainable tourism)についての状況について説明したいと思う。

【英国における観光の現状】
・2007年の観光関連による支出の合計額は863億ポンド、そのうち海外からの訪問者の支出は約160億ポンド、一方国内居住者の観光によっても676億ポンドの支出があった。
・雇用面では、国内全体で20万人以上が観光関連業で働いており、直接観光業に従事している人数は、英国全体の被雇用者の約5%に当たる約14万人である。この割合は地域によっても差があり、スコットランドでは9.2%が観光関連業に従事している。
・最近は、従来の「観光」を意味する‘tourism’ではなく、訪問者全てを視野に入れた‘visitor  economy’という言葉が用いられるようになっている。これは、単純に観光のみを目的とした訪問だけでなく、ビジネスの出張などによる訪問客の誘致や、VFR(visiting families and relatives)と呼ばれる親類や友人への訪問も大きなマーケットとなるためである。特にVFRについては、英国内の旅行の3割がVFRに該当するという調査結果がある。

【英国の政府や自治体の役割】
・国レベルでは「文化・メディア・スポーツ省」が観光関連の政策を決定している。他にも国内の交通インフラの整備、土地利用計画の策定、消費者保護、安全の確保などが観光に関わってくる政策となる。
・広域レベルでは、主にRDA(Regional Development Agency:地域開発公社)、RTB(Regional Tourist Board:地域観光委員会)などが、地域の経済政策として観光の推進に関わっている。
・地方自治体レベルとしては、観光政策に対する法定の責任はないが、経済活性化のカギとして観光振興に取り組んでいる。具体的には、観光関連団体のパートナーシップ主導やマーケティングなど。
・また、近隣自治体が寄り集まって組織したDMO(Destination Management Organisation)と呼ばれる団体も観光振興に取り組んでいる。主な活動としては、その地域に対する観光イメージの喚起など。ただし目に見える形での成果を上げることが難しいため、納税者への説明義務を果たすことが困難でありがちである。

【「持続可能な観光」とは】
・観光業が地元に与える影響は、経済的なものから始まり、文化的、環境的、社会的な影響など様々なものがある。「持続可能な観光」を目指す場合、こうした全てのことを考慮に入れる必要がある。
・持続可能性を考えた場合、ただ単に観光を促進するだけでなく、自治体において独自の景観、環境に関する規制を設定するなど、観光に関する制限を行うことが必要になることもある。
・環境面を重視した持続可能な観光においては、カナダ、ニュージーランドの両国は環境基準を設定するなど世界的に見て非常に進んでいる。
・観光の発展は、それ自体を目的とするのではなく、地域経済を振興させる上でのプロセスの一つとして考えるべきである。
・・自治体は長期的な展望を持って、一貫性のある目標を設定する必要がある。また、自然環境、街並み、土地の雰囲気、住民など、全ての環境資源を尊重すべきである。

【英国での「持続可能な観光」】
・英国では2004年の7月に、文化・メディア・スポーツ省が発行した観光政策に関する報告書‘Tomorrow’s Tourism Today’において、観光振興による「賢い成長」がキーワードとなっている。
・2004年から2005年にかけて、英国内の自治体から優良事例を実践している自治体を選出する「ビーコン・カウンシル」事業のテーマの一つとして「持続可能な観光」が取り上げられた。その結果、地元団体とのパートナーシップを強化して観光振興政策に取り組むグリニッジ市、自然環境への影響を最小限に留めようとする取り組みを行うニュー・フォレスト市、また観光地としては一般的でなくても、ビジネス客などをターゲットとしてマーケティングを行っているバーミンガム市など、様々な取団体が受賞している。
・民間の優良団体を表彰するプログラムを実施することにより、優良事例の普及を行っている自治体も多い。
・最後になるが、「持続可能な観光」を目指す上で政府や自治体などにとって最も重要な役割は、長期的な視点を持って観光の振興と、それが地域、社会、環境等に与える影響のバランスを取る政策を立案することである。


【質疑】
・(観光の過開発に伴う具体的な悪影響にはどのようなものが考えられるか)観光客の数を増やそうとするあまり、従業員のスキル等のサービスの質が低下してしまうといった問題が起きがちである。また、観光に従事する季節労働者が増えすぎたため、地元経済に悪影響を及ぼしているケースもある。「持続可能な観光」を目指すためには、年間を通じた観光客の誘致を考慮すべきである。
・(過開発とならないよう、地域において観光客が受け入れ可能なキャパシティを超えないことが重要と思われるが、それを計ることは困難ではないだろうか)ご指摘の通り、それは非常に重要かつ難しい問題である。自治体としては地域住民と話し合いの場を設け、住民の意見を聞き、コミュニティと一丸となった観光振興が必要となるだろう。
・(英国にはコミュニティが主導する観光振興に対する助成金の制度があるだろうか)スポーツや文化的イベントを開催する際に、地域開発公社が助成金を支払っている場合がある。
・(2012年のロンドンオリンピックの影響にはどのようなものが考えられるか)様々な影響が考えられるため、列挙することは難しい。しかし、オリンピックを開催するにあたって、交通インフラの整備が進むことは間違いない。単にスポーツを観戦するだけでなく、文化的にも良い影響を残せるようにすべきである。 
・(観光資源がない場所で、観光を成功させるポイントにはどのようなものがあるか)例えばバーミンガム市のように従来からの観光地ではない都市でも、ビジネス客をターゲットとして素晴らしいマーケティングを行っている。また、フェスティバルを開催して、観光客の増加を図っている自治体もある。リーダーシップと想像力が最も重要となるだろう。
・(一度しか訪問しないビジターとリピーターと、どちらをターゲットとしているのか)バランスを取ることが重要である。そのためにも、調査を行って状況を分析する必要がある。
・(ロンドンにおけるビッグベンなど、日本においてはシンボルになる観光スポットがないが)インターネット等で簡単に情報が入手できる現在では、必ずしもシンボルとなる物が必要になるわけではないと思う。バックパッカーなどの口コミでビジターが増えることも大いに考えられる。

(以上)

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(注)この記録は、Jane Lutz氏が自治体国際化協会ロンドン事務所において英語にて行った講演の内容について、同事務所職員が概要を日本語にて記録したものである。



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