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CLAIRメールマガジン vol.383(2026年2月13日)=英国の住環境における湿気・カビ問題の実態と制度的対応

2026年02月13日 

英国で生活する中で避けられない問題の一つが、住居の「カビ」です。窓の結露や壁の黒ずみは決して珍しいものではありません。こまめに掃除をしていても完全に防ぐことは難しく、日常的な悩みとなっています。

英国の住宅は築年数が古いものが多く、分厚いレンガ造りのため、室内の湿気が外へ逃げにくい構造になっています。加えて、防犯や寒さの影響で窓を開ける機会が少なく、洗濯物も屋外ではなく室内で干すのが一般的です。こうした住宅構造と生活習慣が重なり、室内に湿気がたまりやすい環境が生まれてしまいます。

しかし、2020年に起きたある事件をきっかけに、この日常の悩みは社会問題として注目されるようになりました。社会住宅(公的に提供される低家賃の住宅)に住んでいた2歳の男の子が、カビに覆われた劣悪な住環境で暮らし続けた結果、呼吸不全で亡くなったのです。家族は何度も管理側に改善を求めていましたが、換気不足が原因とされ、十分な対応はなされませんでした。後の調査で死因が住宅内のカビであることが公式に認められました。

この事件で注目されたのは、カビそのものではなく「誰の責任として扱われていたのか」という点でした。英国では、カビは長く住民の生活習慣によるものだと考えられていましたが、実際には、古い住宅、修繕の遅れ、対応プロセスの欠陥といった条件が重なったものであることが明らかになったのです。

これをきっかけに、英国では「Awaab’s Law」という新しい法制度が導入され、社会住宅の大家が問題を迅速に解決する義務を負うようになりました。この制度は単なる注意喚起に留まるものではなく、報告義務や対応までの時間制限まで定めた法制度で、日常の問題が、制度を見直す大きな転機となりました。

 

(ロンドン事務所 所長補佐 大藪)

 

【参考文献】

< https://www.theguardian.com/uk-news/2022/nov/15/death-of-two-year-old-awaab-ishak-chronic-mould-in-flat-a-defining-moment-says-coroner >
<https://england.shelter.org.uk/professional_resources/news_and_updates/damp_and_mould_in_social_homes_ombudsman_case_studies >
< https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2023/36 >

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