新潟大学大学院実務法学研究科助教授
馬場 健
はじめに
本報告は、2006 年9月16 日から29 日にかけてイギリスで行ったインタビューおよび
資料収集に基づいて作成した。今回の調査の当初の目的は、ロンドン・ドックランドを例
に採りながら現代英国の中央地方関係の特徴についての知見を得ることであった。
そもそも1981 年から1998 年まで存在したLDDC(ロンドン・ドックランド開発公社
(London Dockland Development Corporation))によるロンドン・ドックランドの再開
発は、民間活力を積極的に導入するサッチャー政権による都市再開発の典型とされ、当該
地域の復興はロンドン再開発の目玉として当時注目を集めた。だが、2012 年のロンドン・
オリンピックの開催地としてこの場所が選定された理由の一つとして、オリンピック招致
が当該地域の再開発に資するとの評価(この招致により12,000 人の新規雇用が将来にわ
たって確保されるなど)を得たことが挙げられた。この両者の乖離についての事前調査か
ら、ドックランド地域の現在の状況がある程度明らかとなった。すなわち、LDDC により
再開発が進んだのは、ロンドン中心部から比較的近いカナリー・ウォルフまでの地域で、
それより以東の地域(Low Lea Valley)は交通機関の未整備などによって民間企業が立地
しないため再開発が進まず、この結果当初LDDC が意図した産業構造の転換が図られない
まま現在に至っており、失業率と児童の貧困率のともに高い地域となっている。したがっ
て、GLA(グレーター・ロンドン・オーソリティ(Greater London Authority))が策定し
た大ロンドン計画においてもこの地域の再開発は重点課題に挙げられ、さらにオリンピッ
クの招致に伴う交通機関の整備とともに官民双方による再開発が進めば、この状況が緩和
されると期待されている。
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イギリスにおける都市再開発を巡る中央地方関係に関する調査報告 -ロンドン・オリンピック2012 のためのドックランド再開発を例として-