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調査・研究

スピーカーシリーズ

Dr Paul Monaghan MP(スコットランド・ハイランド選出)による行政事情紹介

2017年02月03日 

2016年度第3回スピーカーシリーズ

Dr Paul Monaghan MP(スコットランド・ハイランド選出)による行政事情紹介

2017年1月23日(月)13:55~15:25

講師:Dr Paul Monaghan MP

(Caithness, Sutherland and Easter Ross 選挙区選出)

 於:クレアロンドン事務所 会議室

 

 2016年度第3回スピーカーシリーズとしまして、スコットランド・ハイランド内(Caithness, Sutherland and Easter Ross 選挙区)選出の現職国会議員(Member of Parliament)である、Dr Paul Monaghan MP(スコットランド国民党(SNP)所属、2015年5月当選)からお話を伺いました。

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 選挙区であるCaithness, Sutherland and Easter Ross地区は、スコットランド最北部に位置し、人口が少なく、高齢化が進んでいる点で、日本の地方部と似た状況にあります。そうした状況における地域の取組と、英国のEU離脱という転換期にある中、今後のスコットランド及び地域開発へのお考えを伺いました。

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  スコットランドと同氏選挙区(Caithness, Sutherland and Easter Ross)の位置

1.選挙区域概要と選出について

 面積は約12,000平方キロメートルで、福島県より少し小さいくらいの規模である。一方、福島県が人口200万人程度であるのに対し、同地区は人口約6万7千人である。

 ご存知のとおり、2015年5月の総選挙で、スコットランドにおいてはスコットランド国民党が圧勝し、59選挙区のうち、56人のSNP所属国会議員が誕生した。これは、スコットランド国民が、連合国である英国民としてではなく、スコットランドの課題に注力していきたいことの表れであるといえる。

 一方、選挙区は3地域合同(Caithness, Sutherland and Easter Ross)であり、それぞれ異なる地域性を持っている。選出議員にとって、地域の意見をバランスよく踏まえていくことは大きなチャレンジであると言える。

2.地域産業

(1)観光

 美しい海岸があり、サーフィン、フィッシングも楽しめる。サーフィンのためにオーストラリアから訪れる人があるほどである。山のぼりやハイキングも楽しめ、素晴らしいゴルフコースもあり、アメリカの富裕層が同地に別荘を購入している。恵まれた自然環境を大切にしている。また、地域は小さな街が中心であるが、街並みはとても美しい。現在はユースホステルとして利用されているお城など、優れた歴史的な建築遺産もある。

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(2)エネルギー産業

 北岸のデューンレイ(Dounrey)には原子力施設がある。5基の原子炉のうち、3基は民間設置で異なるタイプのものが高速増殖炉のプロトタイプの開発等に、残りの2基は軍事利用のためのもので、原子力潜水艦の原子炉の開発テストに利用された。現在は既に廃炉が決定され、廃炉作業中である。現在約2000人が関連事業に従事している。廃炉完了まで相当の経済的影響を地域経済にもたらす。

(参考:http://www.dounreay.com/)

 スコットランドのエネルギー産業には、石油・ガス産業がある。港湾施設の開発には力を入れており、深さ18mのドックには、北海油田の石油採掘プラントを横付けできる。地元企業のGlobal Energy Groupには三井物産が30%の出資を行っている。地域は野生イルカの生息地でもあり、産業の育成と共に自然環境の保護に注意が払われている。

 スコットランドは、原子力発電の推進に熱心で、ヒンクリーポイントに原子力発電所の新設を新たに決めた英国政府と違って、再生可能エネルギーの発展・促進が積極的に進められており、海上に風力発電設備(タービン)が置かれている。これらのタービンにも三井からの出資がある。その他、潮の満ち引きにかかる力を利用した発電についても、実験が行われている。

 

(3)農水産業等

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 ハイランドがウイスキーの産地であることは世界的によく知られているが、まさに主要な産業である。蒸留所巡りも人気のある観光の一つになっている。その他、ジンの生産もこの地域で行われている。穀物の生産の他、家畜においては、牛肉の品質が高いことで知られている。

 漁業が重要な産業であることはもちろんで、サケは養殖もおこなわれている。EU内のデンマークやスペイン等から、豊かな漁場を求めてスコットランドに漁に来ている。また、水揚げのほとんどは、イングランドではなくヨーロッパに輸出される。

3.交通

photo2 都市部から離れた、遠隔の地であるため、移動手段を個人でまかなう必要がある。公共交通は日常において頼れる交通手段になりえていない。鉄道網は、130年ほど前のヴィクトリア時代以降十分に投資がされてこなかったので、例えばエジンバラから選挙区へ鉄道を使うと、当時より時間がかかることもある。歴史ある鉄道として観光目的で利用されることもあるが、市民が通学・通勤などに日常に使える足にはなり得ていない。
 冬場は雪に覆われることもあり、個人の車による移動もままならない場合もある。天候とインフラ整備がこの地域の大きな課題である。

4.英国のEU離脱(Brexit)について

 2016年6月に行われた、EU離脱を巡る国民投票では、連合国内で結果に大きな違いが生じた。イングランド・ウェールズの大部分の地域でEU離脱と投票されたのに対し、スコットランドでは国民の62%がEUにとどまる方に投票した。

 (講演日)現在、メイ政権が目指しているのは、単一市場に留まらないハード・ブレグジットであり、その場合、スコットランドで約8万人が職を失うと試算されている。これは選挙区であるCaithness, Sutherland and Easter Rossの人口(6万7千人)を上回る数である。EUへのアクセスはスコットランド経済にとっては非常に重要である。第一に、イングランドより人口、経済規模の小さいスコットランドにとっては、大規模な市場であるEUに自由にアクセスできることのメリットは大きい。例えば、漁業においては、スコットランドの水揚げの大半はヨーロッパへ輸出される。特に、エビ・カニ・貝類が輸出されるのはほとんど全てヨーロッパで、イングランドではない。イングランドにとってスコットランドは重要な輸出先であるが、スコットランドにとってイングランドは主要な輸出先ではない。ヨーロッパがスコットランド最大の輸出先である。ウィスキーも、最大の輸出先はフランスである。

 イングランドに供給される石油とガスの90%はスコットランドで生産されているが、会計上は第三国生産とされており、スコットランドの輸出ではなく英国の輸入として扱われている。

 スコットランドでは、原子力等に替わる再生可能エネルギー生産に向けた取り組みが行われているが、英国中央政府は昨年中国資本によるヒンクリーポイントの原子力発電所開発を発表している。

 スコットランドと英国中央政府には、考え方に大きな開きがあり、(英国の一部としてではなく)スコットランドが世界に向けてその声を発信する時が来ている。

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黄:EU残留に投票、青:EU離脱に投票(地域別)

 日本の多くの人にとって、英国が連邦国であることは分かりにくいことかもしれないが、スコットランドとEUは事実上結び付きが強い。一方、ロンドンなど一部の地域を除くイングランドでは、EU離脱投票において変化を望んだと言える。今日お話ししたことにより、英国が単一国家ではないこと、EU離脱投票結果について、新たに考察を深めていただける機会となることを期待する。

5.質疑

(1)スコットランド内での地方分権についてはどのようにとらえるか?

 英国中央政府からの補助金という形でスコットランド政府に必要な資金が付与されているが、緊縮財政により補助金は削減されている。スコットランド政府が財政をコントロールする権限は制限されている。
 スコットランド内でも地方分権が進むことが望ましいと考えるが、財源が限られている今では、地方が疲弊することにつながりかねない。今は望ましいタイミングではない。

(2)選挙区内について、高齢化が進んでいる場合、公共交通が不可欠になると考えるが、どのように整備が進められているか?

 公共交通については、地域交通システムという、チャリティによる小型車による運行を始めている。フェリー等のタイムテーブルと合致するようにしている。
 また、ウーバー(UBER)タイプの配車システム(スマートフォンアプリによる配車手配・支払いが可能なサービスを提供)は、こうした地域に向いている。この際重要なのは、インターネット接続というインフラが地域に整っていることである。そのための地域投資は行われなくてはならない。

(3)定住者を増やすために行われている取り組みがあるか?

 定住者を増やすために決定的に重要なのは安定した職である。ロンドンと違って住宅供給は問題にならない。ご覧頂いたように観光資源が豊富なため、夏は観光に関する職があるが、年間を通じた仕事がなくてはならない。この地で育っても進学や就職で別の土地に行き、そのまま帰ってこないこともあるが、この地にとどまることは強制できない。給与水準が比較的高く、住宅は比較的安い。また自然環境にも非常に恵まれているので、観光産業に従事するEU市民が定住することがある。

(4)なぜイングランドは国民投票においてEU離脱を選択したと考えるか?

 EUとつながりが深い地域はEUに留まることを望んだが、EUの恩恵を受けていないと感じる地域はEU離脱による新たな変化を望んだ結果ではないかと考えている。

 

添付の写真・資料(講演中の撮影写真を除く)はDr Monaghan MPご提供による。

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