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スピーカーシリーズ

オリンピックボランティア:ロンドン・ソチでの体験と東京2020への提言

2014年07月01日 

2014年度第1回スピーカーシリーズ

「オリンピックボランティア:ロンドン・ソチでの体験と東京2020への提言」

2014年6月3日(火)16:00~17:30

講師:アクロス・アソシエイツ パートナー 西川 千春氏

 於:クレアロンドン事務所 会議室

今年度第1回目のスピーカーシリーズは、英国で企業向けのコンサルティングをされているアクロス・アソシエイツ パートナー 西川千春氏を講師にお招きし、オリンピックにおけるボランティアに関して、ご自身の通訳ボランティアとしてのロンドン・ソチでの経験を踏まえ、ご講演いただきました。主な内容を以下のとおりご紹介いたします。IMG_3090

【ロンドン五輪について】

・2020年の東京五輪では8万人のボランティアが必要と言われている。オリンピックは、戦時下を除けば最も市民が動員されるイベントとも言われており、今後どのようにマネジメントしていくかが重要。

・ロンドン五輪では、ボランティアは「あなたたちがオリンピックを作る」という意味で、”Games Maker”と呼ばれていた。ボランティアのシャツは、期間中ロンドン市内の駅や会場など各地で見かけることができた。このようにボランティアが前面に出たことがロンドン五輪の一つの特徴であったと思う。

・ロンドン五輪におけるボランティアは、五輪開催2年前の2010年9~10月に募集が行われ、盛んな広報活動の効果もあり、24万人もの応募があった。(募集定員は7万人) その後、インタビューを通して選抜され、会場や選手村運営、開会・閉会式パフォーマンスなど、860業種にもわたる役割がそれぞれに与えられた。

・ボランティアの研修は、テストイベント(プレオリンピック)での具体的な実地研修に始まり、オリエンテーション(タレントや元選手なども参加する決起集会イベント)を経て、オリンピックの歴史やロンドン五輪の概要など、ワークブックを用いての一般的な研修が行われた。

・加えて、通訳など役割別の研修やリーダー研修、直前には、セキュリティなど会場の内容に関する研修が行われた。また、ロンドン五輪における特徴的な事として、ダイバシーシティ(多様性)への対応の仕方について、特に詳しく研修が行われた。

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ボランティアの研修で使われたワークブック

・通訳ボランティアは色々な職種の中でも、特にやりがいのある役割だったと思う。自分(西川氏)が担当したエクセル会場では、150名程度配置され、卓球、レスリング、フェンシングなど7種目の競技に対応しなければならなかった。

・なお、ロンドン五輪では、20種類を超える言語の通訳ボランティアを配置していた。対応できない場合にも電話で対応できる体制が取られていた。

・ロンドン五輪に参加したボランティアのデータベースは、大会後「join in」という組織に移行されており、今後も大規模なスポーツイベントなどがある際には、必ず連絡が来るようになっている。また地域のスポーツボランティアへの継続的な参加を促している。このシステムもオリンピックの「レガシー(遺跡)」と言うことができると思う。

・ボランティアに支給されるものは、ユニフォーム、オイスターカード(公共交通機関に使えるIC型プリペイドカード)、食券と感謝状のみ。ボランティアへのモチベーションは「物」ではなく、会場や選手と興奮を共有したという「経験」とオリンピックを成功させた一員だという「達成感」だと思う。

・大学生などの若年層にとっても、国際大会でボランティアをするという国際経験は今後の人生において大きな意味を持つと思う。

・ボランティアの話題とは離れるが、チームGB(英国代表)の祝勝パレードは意図的にパラリンピック終了後に行われ、オリンピック、パラリンピックを一緒にお祝いするという雰囲気が生まれ、非常によいパレードとなった。残念ながら、日本のロンドン五輪後の祝勝パレードは、パラリンピック開催中に実施されたが、東京2020の際には、ぜひロンドンと同じような形で実施してもらいたい。

【ソチ五輪について】

・ソチ五輪のボランティアは、英語を学習している学校を数十校選抜し、その中から応募してもらう形で集められた。外国からのボランティアについては、「客寄せパンダ」のような部分があり、ボランティア決定も開催直前となるなど、ロンドンの時とは大きな違いがあった。また、通訳ボランティアについても、あくまで「お手伝い」であり、最前線にはプロが立っていた。

・ロシアは、ソチ五輪に向けて、バンクーバー、ロンドンの五輪開催時に、ボランティアとして百人程度を派遣し、そのボランティアはソチ五輪ではチームリーダーとして活躍した。

【東京五輪2020に向けて】

・日本の受け入れにおける課題はソフトであると感じている。「おもてなし」という言葉がよく用いられるが、日本人のサービスは日本人にとってよくても、外国人にとっては必ずしもよいとは限らない。

・ソチは街の中心部から離れた場所に会場があったため、ロンドンの時と異なり、街全体で盛り上がるという雰囲気がなかった。東京開催の時も、いかに街全体で盛り上がる雰囲気を作るかが重要となってくる。

・五輪開催については、日本人であれば問題はないと思われているが、一方で驚きや面白みにかけるのではないかというイメージがある。日本の誇る最新のテクノロジーと伝統文化を融合させることなどによって、面白いことができるのではないか。

【質疑応答】

●ロンドン五輪の際には、いかにスタッフをマネジメントしていたか。また、東京五輪でボランティアをマネジメントする際のアドバイスをいただきたい。

⇒基本的にマネジメントはLOCOG(オリンピック実行委員会)が行っていたが、ボランティアの責任範囲も非常に大きかった。東京で開催する際には、まず「日本のボランティアをどのような形にするか」を決める必要がある。その際に、ロンドンのケースは参考になると思う。ぜひ、東京では、経験豊富な人、若い人がうまくバランスのとれた形で実現してもらいたい。

●長期間ボランティアをするには仕事を休むなどの対応も必要だと思うが、ロンドン五輪時の企業におけるボランティアへの対応を教えていただきたい。

⇒企業ではボランティア休暇を推進するなど、ボランティアを希望する人に対して、参加しやすいシステムを設けていたところが多かった。

●ロンドンでは、ボランティア自体が楽しんでいたという印象だが、どのようにしてそのような雰囲気を作っていたのか。

⇒ボランティア研修でも「まずは自分が楽しむように」と説明を受けた。雰囲気づくりについては、そういった考え方が重要であると思う。日本もワールドカップなどにおける盛り上がりを見ると、心配ないだろう。

●ボランティアをしていて残念だと思ったことは。

⇒通訳ボランティアの場合、たまたま担当の時間帯に自分の能力が必要とされる場面がなく、活躍の場がないなど、必ずしも楽しいとは限らない。そういった人をどうフォローするかも問題となってくる。やはりそうした場では、社会人としての経験をある程度積んだ人が活躍していたように思う。

【講演資料へリンク(PDF)】

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