調査・研究

スピーカーシリーズ

英国における日本食・日本酒事情

2017年06月28日 

2017年度第1回スピーカーシリーズ

「英国における日本食・日本酒事情」

 

2017年6月1日(木)16:00~17:30

 講師:ジェトロ・ロンドン事務所 島本 健一氏

  酒サムライ(日本酒造青年協議会)英国代表 吉武 理恵 氏

   場所:クレア・ロンドン事務所 会議室

 

2017年度第1回目のスピーカーシリーズでは、ジェトロ・ロンドン事務所の島本氏、酒サムライ(日本酒造青年協議会)英国代表の吉武氏をお招きし、英国における日本食、日本酒事情についてご講演いただきました。主な内容を以下のとおりご紹介します。

 

<ジェトロ・ロンドン事務所 島本氏>

◆日本の輸出概況

・日本からの輸出という点では、EUは全体の5%程度を占めており、ここ数年間変動はない。

◆英国における日本食事情

・英国では日本食レストランは約800店舗。その大多数はチェーン店も含め非日本人の経営であるが、食材の流通に関しては日系の卸業者が関わっていることが多い。ドイツ・フランス等では中華系・韓国系が一定の存在感を有しているのに対して英国で日系が強いのは、英国は他の地域と比べて在留邦人の数が多い(約6万8千人)ことを背景として、日系の事業者が昔から確固たる根を張ってきたことが背景にあると考えられる。

・とりわけロンドンはダイバーシティに富んでいるので、他の欧州諸国と比べて、他国の食文化に寛容な側面があり、日本食のヘルシーというイメージが、英国人の強い健康志向とうまく結びついたのだと考えられる。

◆EU・英国への輸出

・日本産食品をEU域内に輸出する際の流通ルートについては、日系卸の場合は日本国内にパートナーとなる輸出商社がいることが一般的であり、日本の食品メーカーは日系卸と商談を行っても、実際の取引は輸出業者と行うことになる。営業のために英国に来る必要はあるが、取引自体は日本国内で完結することとなり、取引のハードルが低いのは日系の業者が多くいる英国の強みだと言える。

・ただし、船で送る場合には赤道を二回通らねばならず、輸送期間も約2ヶ月かかることは、英国に日本産食材を輸出する際の大きな物理的制約。そのため、英国側は最低でも賞味期限は1年欲しいと考えるが、日本のメーカーは安全側をとって賞味期限を短く設定する傾向にある。

・最近EU域内の複数の日本食材の輸入業者に話を聞いたところ、他のアジアやEU域内で製造されるものと比べてマヨネーズやソースなどの加工食品の完成度は高いと評価していたが、これらの加工食品を輸出する際には様々な規制が障壁となることが多い。EUでは、動物性食品や残留農薬などさまざまな規制があるが、そこをクリアできれば、日本の高品質な加工食品は売れると思われる。

・過去にジェトロでは、ロンドン市内のウェストフィールド・ショッピングセンターにポップアップストア(一時店舗)を設けて日本産食材の試験販売を行ったことがある。その結果、全体の傾向としては、英語のラベルがなくても使い方が分かりやすいものや、健康志向などの現地のニーズと合致しているものはよく売れた一方で、どのように使えばよいか分からず、説明もないものは売れにくかった。このことからは、『英語ラベル等で使用方法を伝える』ことと、『消費者ニーズを踏まえる』ことが、如何に重要であるかが伺える。

◆質問

・さまざまな規制はEUのほうが高いようにみえるが、賞味期限を日本の方が短く、EUの方が長く設定することには理由があるのか。

→日本とEUで規制上の賞味期限に対する考え方に大きな違いはない。いずれも食品メーカーが自社の責任で設定・記載するもの。日本のメーカーは、リスクを避けるため、安全サイドに立って賞味期限を設定している。英国の気候を踏まえて消費期限を長く設定することも可能かと思うが、そこは各食品メーカーの判断。

・現在日EUEPA交渉が行われているかと思うが、当該交渉において残留農薬など各種規制に関して、何らかの合意があり得るものなのか。

→取り決めをすることは不可能ではないだろうが、日本が失うもののほうが多いのではないか。こうした状況を踏まえた上で日本からEUへの食品輸出拡大を図るには、EU域内のルールを良く認識した上で、当該ルール従って行うしかないと考える。

・お茶以外にニーズのある日本産商品はなにか?

→例えば日本食材店では日本ならではのお菓子は人気がある。各地の銘菓であっても勝機はあるのではないか。業務用食材で言えば、レストランのシェフは常に英国にはないユニークなものを求めている。近年ブームになっている柚子はその典型。使い方とセットで提案できれば十分販路拡大の可能性はある。

・日本食を扱っているレストランで日本産の食材はどれほど利用されているのか?

→日本人シェフがいるところは日本産食材に対するこだわりが強く、使用する傾向にあるが、そうでないところは値段を重視して、日本産でないところを使うことも多い。

 

<酒サムライ(日本酒造青年協議会)英国代表 吉武氏>

◆日本酒の現状

・酒蔵に対するさまざまな経済支援プログラムの存在や日本酒ブームにも関わらず、毎年10蔵程度が廃業している。現在存在する酒蔵1,500程度のうち、実際操業しているのは1,000程度である。日本酒衰退の一因としては、全体的にアルコールの消費量が減ったことと、日本酒は年配の男性が飲むものというイメージがあったためではないか。

・日本における日本酒の消費割合はアルコール全体の7%。全体的に消費割合が減少傾向にある中、確実に増加しているのはリキュールである。

・日本酒は全都道府県に蔵元がある。新潟、長野、兵庫、福島の順に蔵元数が多いが、生産量でいえば兵庫が最多で、日本酒の全生産量の3分の1程度が作られている。

◆酒サムライについて

・日本酒の現状を救うために、比較的若い蔵元代表らで立ち上げた組織。

・各分野で活躍する私人を「酒サムライ」に任命し、PR活動を依頼。

・ロンドンで行われている「International Wine Challenge」という世界最大のワイン審査会の中に、約10年前に日本酒部門を立ち上げ。日本にも鑑評会はあるが、海外の審査会で、日本人と外国人両方の審査員がブラインドで審査するというのがIWCの特徴である。

◆日本酒の発信におけるロンドンの役割

・蔵元数は年々減少しているが、日本酒の輸出は、日本食の普及に付随して右肩上がりの状況にある。ロンドンは特に富裕層が多いので、高いものが売れる傾向にある。

・2014年時点の日本酒の輸出額の国別割合は、アメリカがトップで約36%。アジア全体では40%である。ヨーロッパの中では英国が一番輸出額が大きいものの全体の2%に過ぎず、今後の拡大が十分見込まれるといえる。

・ロンドンは、日本酒を世界に発信するための最高の土壌である。その理由として、世界のワインビジネスのハブがロンドンであることさらに、ロンドンはニューヨークに並ぶ情報の発信地であることから、ロンドンでワインのネットワークで日本酒をPRすることは的を射ていると思う。また、英国人は保守と革新をうまく融合してトレンドを作り出すのを得意とする。

・最終的には、日本人だけではなく、外国の人が自分の言葉で発信できるような形になるのが正しいプロモーションのあり方だと考える。

◆日本酒をプロモーションする際のポイント

・4つの課題

①ショットグラスで飲む強い蒸留酒なのではないか。

→小さなおちょこで飲むイメージから来ているため、固定概念を取り払うためにも、ワイングラスで出すと良い。また、「ビールのような作り方で、ワインと同じような度数だ」と説明することができる。

②熱燗でしか飲めないのではないか

→さまざまな温度で楽しむことができる唯一のアルコール飲料が日本酒であるが、分かりやすい説明としては、良いお酒(吟醸など)は冷たくして飲むというのが良い。

③寿司などの日本食としか合わないのではないか

→料理を選ばず、さまざまな食事と合う。魚介類であれば、キャビアなどの塩辛いもの、サーモンや牡蠣などにも合う。古酒や無濾過などの力強いお酒は肉にも合う。また、デザートであれば、チョコレートや同じ発酵食品のチーズは日本酒と相性が良い。

④ワインは赤、白など種類があるが、酒は1種類しかないのではないか

→吟醸や純米などのほかに、スパークリング、古酒、デザート酒(梅酒、ゆず酒)、濁り酒などもある

・日本酒は昔から百薬の長と言われていた。実際、ワインと比較してタンニンが含まれていないし、酸味が少なく、旨味成分(アミノ酸)が最も高い酒であるのでヘルシーであるほか、リラクゼーション効果も高い。

◆質問

・イベントなどでサーブする場合、それぞれのお酒の温度のおすすめや決まりはあるか。

→吟醸・大吟醸は5度くらい、純米だったら室温とよく言われている。ただ、ボトルに書いてある温度で出すのも良いが、温かいもの、冷えたものなど全体でバラエティに富ませるとインパクトが大きくなるように思う。

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