調査・研究

地方自治体等訪問

スペルソン市行政運営の概要

2010年08月06日 

2010年6月1日にスペルソン市を訪問し、同市における行政運営の一部について説明を受けました。その内容について以下のとおり報告します。

【スペルソン市概要】
・ロンドン中心部のWaterloo駅から同市中心部まで電車で約30分。
・スペルソン市は大ロンドン市南西に隣接するサリー県に11ある市町村のうちの一つ。
・市人口は約90,000人。高齢者人口比率は16%程度。
・サリー県の人口は約100万人。
・サリー県には県単位で1つ警察本部が置かれている。
・県が所掌する事務は以下のとおり。
①教育
②福祉
③高速道路
④交通(鉄道を除く)
⑤消防
⑥商取引規制
⑦廃棄物処理
⑧県域の戦略計画の策定
⑨図書館
・市町村が所掌する事務は以下のとおり。
①住宅及び住宅手当
②廃棄物収集
③道路清掃
④カウンシル・タックス及びビジネスレイトの収税
⑤市町村域の建築許可
⑥その他の許認可
⑦火葬
⑧娯楽
⑨公園・広場の管理
⑩環境
・スペルソン市域にはパリッシュは存在しない。
・サリー県議会は80名の議員からなり、任期は4年間。最近の選挙は2009年に行われた。現在、保守党56名、自由民主党13名、無所属など10名、労働党1名で構成されている。
・スペルソン市議会は39名の議員からなり、任期は4年間。最近の選挙は2007年に行われた。現在、保守党31名、自由民主党8名で構成されている。市域には13の選挙区があり、1つの選挙区から複数名の議員が選出されている。
・スペルソン市選出の県議会議員は7名で、保守党4名、自由民主党2名、労働党1名である。
・スペルソン市は1880年にスペルソン町とステインズ町が合併してできた市である。

1 市の意思決定過程
(1)事務部局幹部会議(Management Team)
・出席者は、事務総長(Chief Executive)、副事務総長(Deputy Chief Executive、1名)、事務総長補佐(Assistant Chief Executive、3名)、Senior Manager(1名、毎週異なる)。
・毎週異なるSenior Managerを幹部会議に参加させることで、Senior Managerに市の懸案事項、課題を部局横断的に知る機会を与えている。Senior Managerの教育・研修機会として位置づけているようであった。
・幹部会議は通常毎週月曜日9:30~11:30で開催される。
・5月31日(月)が祝日で3連休であったため、この週は6月1日(火)に幹部会議が開催された。また、連休明けのため休暇をとっている職員もおり、この日はDeputy Chief Executive、3名の事務総長補佐のうち1名が欠席で、それぞれ代理者が幹部会議に出席していた。
・幹部会議の資料は、前週金曜日までに出席者に配布され、出席者は会議開始までに資料に目を通すことになっている。
・会議の冒頭は非公開案件となっており、決められた上記メンバーのみでの協議となるが、非公開案件終了後は、誰でも希望する市職員が同席・傍聴できる。

(非公開案件)
・この日の非公開案件は、公園管理に係る契約変更についてであった。
・スペルソン市南部に市が管理する公園があるが、その管理委託契約の金額について、経費節減のために契約金額を徐々に削減していきたいという市事務部局の方針が協議された。
・当該契約案件が非公開案件とされた理由は、契約金額の削減について検討していることが住民に明らかとなれば、住民から議員へ陳情がなされることが予想されるため、議員も含めて市内部で十分かつ慎重な事前調整が必要と判断されたためである。

・その他、市予算、福祉サービス、治安問題、人事に関する案件は重要かつ課題の多い案件であることから、毎週幹部会議の議題に含まれているとのことであった。

(2)閣議事前ブリーフィング
・来週行われる閣議に向けた準備として、この日17時から事前ブリーフィングが行われた。
・閣議は一般市民が傍聴することができ、その場で各案件についての最終的な意思決定がなされる。通常の所要時間は30分から1時間程度。
・閣議で迅速に意思決定を行うために、事務部局から閣議案件についての説明が行われるのが事前ブリーフィングである。通常の所要時間は2~3時間。
・事前ブリーフィング出席者は、リーダーを含む9名の内閣構成員、事務総長、事務総長補佐1名、各担当局長約7名であった。
・来週の閣議案件について、それぞれ担当局長が説明を行ったのち内閣構成員との間で質疑を行うかたちで進められていた。
・事前ブリーフィングの議長はリーダーが務めていた。リーダーの隣には事務総長が座り、リーダーの補佐や、担当局長の説明の補足を行っていた。

2 道路関連サービス政策
・Depot(道路関連サービス本部)では市が提供するサービスのうち、ゴミ収集、道路清掃、高齢者送迎サービスを行っている。ゴミ収集に40人、道路清掃に35人、高齢者送迎サービスに7名の職員が従事している。
・広い敷地には、ゴミ収集車約7台、道路清掃車約2台、高齢者送迎用車両1台が駐車され(訪問時)、また各家庭配布用ゴミ箱の在庫が積み上げられていた。
・同じ敷地内に、2階建て事務所と車両整備場がある。
・スペルソン市では、ゴミ収集、道路清掃、高齢者送迎サービスは市直営で行っており、公園・広場の管理のみ民間企業へ委託している。
・民間企業への委託では、サービス提供方法等について細かな変更を行いたくても契約変更のためにいくら経費がかかるか等の検討が必要であり、柔軟かつ迅速にサービス変更ができないという難点があるとのことであった。

(ゴミ収集)
・各家庭にはリサイクル用ゴミ箱、一般ゴミ箱の2種類が配布されている。大きさは高さ110センチほどの四角柱型で、2箇所に車輪がついている。
・リサイクル用ゴミ、一般ゴミそれぞれ2週間に1度の頻度で収集が行われる。
・各ゴミ箱には各家庭の住所等を記憶したバーコードシール及びICチップが貼付されている。
・ゴミ収集車にはこれらの住所情報を読み取る機能がある。また、将来的にはICチップを使用して各家庭から排出されるごみの量を記録し、ごみ政策に役立てようと考えているが、プライバシーの侵害だと言う住民もいる。ある日刊紙では、このことに対する反対キャンペーンが行われている。植物ゴミの収集も有料で実施されている。
・ゴミ収集は、朝6時~8時頃に実施されている。
・リサイクルゴミは全てまとめて収集されるので、収集後に市が分別を行う。
・ゴミ収集車は、ゴミ集積場で全てのゴミを排出し、Depotへ戻る。
・リサイクル、植物ゴミ以外の一般ゴミは焼却処理される。ただしゴミ処理はサリー県管轄業務であり、スペルソン市の業務はゴミを収集して集積場へ運ぶところまでとなっている。
・現在、生ゴミの分別を始めるための検討が進んでいる。この10年間でゴミの量が増えていることから、いかに焼却処理を必要とするゴミの量を減らすかが課題となっている。

(道路清掃)
・道路管理に係る植物の剪定は、サリー県から委託されている業務で、財源の手当てもサリー県からなされている。
・まれに見る厳冬のあと、道路破損及びその破損による車への損害が問題となっているが、道路整備はサリー県の管轄業務である。ただし、住民から見れば納税しているのはスペルソン市であることから、道路破損についての苦情も少なからず寄せられている。

(高齢者送迎サービス)
・高齢者がスーパーへ買い物に行く等外出する際に、高齢者の自宅から公共交通機関を利用するなどして、目的地へ行き、自宅へ戻るまでの補助支援を行うサービスである。
・無料ではなく、往復で1回5ポンドの利用料がかかる。

3 高齢者福祉政策
・高齢者が、日中習い事をしたり食事をしたりするための市直営の施設としてスペルソン市内には、4つのDay Centreと1つのCommunity Centreがある。年会費は12ポンドである。主として50歳以上の住民が対象である。
・Day CentreとCommunity Centreとでは大きな違いはないが、「Day Centre」というと高齢者施設という印象が強いことから、少し年齢が若くても利用しやすいように、最近になって「Community Centre」という名称を使い始めた。
・訪問したCommunity Centreは2階建てで、1階がカフェレストラン、2階には多目的ホール、会議室、パソコン室、美容室、マッサージ室がある。
・1階のカフェレストランは、ケイタリング業者によって運営されている。美容室、マッサージ室も民間事業者によって通常より安い価格でサービスが提供されている。
・多目的ホール、会議室、パソコン室では、月曜日から金曜日まで毎日5~10種類の各種教室が開かれている(ヨガ、スペイン語、パソコンなど)。
・各種教室ごとに異なるがそれぞれ1~5ポンド程度の参加費が徴収されており、無料ではない。
・スペルソン市外の住民もCommunity Centreを利用することができるが、参加費等は割増となる(市民が12ポンドに対して、市外の住民は20ポンド)。同Community Centreは大きなショッピングセンターに隣接し、バスの便等がよいので、市外の住民の利用も多い。なお、現在の会員数は512人とのことであった。
・各種教室の講師は、プロを雇う場合もあればボランティアを利用することもある。

4 環境政策
(ゴミ問題)
・Depotでも言及のあったとおり、ゴミの総量を減らすことが市の課題となっている。
・対応策として、布地や本の回収はボランティア団体が行ったり、生ゴミの分別回収を検討している。ただし、生ゴミ回収については、ごみ収集車の問題等、実施までに解決しなければならない問題がある。
・また有機物のゴミ(野菜くず、植物、紙など)は、各家庭でのコンポストを推奨し、市が収集するゴミ総量が減少するように努めている。
・各学校でもコンポストが進められているかどうかをチェックするため、ボランティアを派遣して確認作業を行っている。学校でのリサイクル普及は、子どもたちへの教育として良いだけでなく、子どもたちを通じて各家庭へ普及されるという大きな効果が期待される。
・最近、プラスティック分別用の最新機器を導入し、より効率的に分別が行えるようになった。
・Depotでも言及のあったとおり、廃棄物処理はサリー県の業務となっているが、廃棄物処理場はPFIで運営されているものと思われる。したがって、具体的にサリー県が行っている業務は、PFIを担う企業に対しての許可等に関する業務である。
・前政権下で、埋立て税が課されるようになり、自治体はゴミの総量を減少させることにより熱心に取り組むようになった。
・多くのスーパーでは、「これを1つ買えばもう1つは無料でもらえる」という売り方でいろいろな商品を売っているが、これは、本来なら1つしか商品が必要でない消費者に2つの商品を与えることになる。例えば消費者が1つ余分にもらったことを忘れて賞味期限が切れるなどした場合、その商品はそのまま廃棄されることとなり、ゴミ総量を減少させる観点からこの販売方法には問題があると考えている。

(スペルソン市環境アクションプランの内容について)
<内容>
①公園、広場の改善
②生物多様性の推進
③気候変動対策の推進

【気候変動対策について】
・CO2削減について、家庭から、企業から、道路からなど様々な場所からの排出削減を図る。
・イングランド南東部は海面上昇が起きた場合、影響を受けやすいので、この事実を住民に理解させ、対策に協力してもらうことが重要である。
・一般家庭に関する対策としては、①各家庭での断熱材の使用を促進し、住居の熱効率を向上させて暖房の使用率を減少させること、②電気エネルギーを使用する暖房は熱効率性が低いことから、ボイラーによる暖房の導入を促進する(補助金がある)、③新しく住居を建築する際、当該住居で必要なエネルギーの10%は再生可能エネルギーを使用することを義務付ける、④リサイクルを促進する、⑤公共交通の利用率増加に向けた取組みを行う、等がある。しかし、車がなければ移動が難しいため、住民の多くが車を所有しており、公共交通の利用促進について住民の行動を変えるのはなかなか難しいと感じている。
・⑤に関して、公共交通政策はサリー県の所掌であるが、交通対策を通じた気候変動政策には、電気自動車の普及及び電気補充場所の増加なども含まれる。
・スペルソン市自体では、「持続可能な調達方法」の促進を図っている。「持続可能な調達方法」とは、物資調達の際にその時に一番安いものを調達するのではなく、物資の耐用年数等を考慮して長期的に見て一番安いものを調達するという方法である。例えば、自治体の多くでは5年ごとに庁舎パソコンの総入れ替えを行っているところが多いが、調達時点では多少高くても、他のパソコンを購入すればより長く同じパソコンを使用し続けることが可能かもしれない。
・その他パソコンで文書を印刷する場合、印刷機のあるところに専用のカードを通さないと印刷物を出力できない仕組みとしている。無駄な印刷を省くためである。なお、市庁舎は天井が高いし、窓も一重のため、暖房効率が悪いことが課題だとのことであった。
・気候変動対策は、無駄を省き、お金の節約にもなるという側面もあり、自治体にとっても一般市民にとっても大きな利点がある。

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